――富貴に生まれた者こそ、労苦を知るべし
太宗は、名臣・房玄齢に対してこう語った。
「歴代の創業君主は、皆民間に育ち、民の苦楽を体得していた。ゆえに、国を乱すような愚を犯すことは稀だった。だが、彼らの子孫、継承の君主たちは、生まれながらに富貴で苦労を知らず、一族もろとも滅びることすらある」と。
太宗は、自らの若き日の艱難を振り返り、「民の衣食ひとつにも多くの人の汗と労苦がある」と述べる。
一食ごとに農民の苦労を思い、一着ごとに機を織る者の手間を想う――その感覚こそが、君主に必要な「民を思う心」である。
しかし、宮中で育った弟王たちに、その感覚はない。
だからこそ、彼らには優れた補佐役をつけ、善人と交わらせて、徳を学ばせねばならないと結論づけている。
引用とふりがな(代表)
「一食(いっしょく)ごとに稼穡(かしょく)の艱難(かんなん)を念(おも)い、一衣(いちい)ごとに紡績(ぼうせき)の辛苦(しんく)を思う」
――日常にこそ、民の苦労を忘れぬ心を養う
「創業の君(そうぎょうのきみ)は民に育ち、継ぐ者(つぐもの)は富貴に育つ」
――出自の違いが、治政の質を左右する
注釈(簡略)
- 創業君主(そうぎょうくんしゅ):戦乱を治め、王朝を打ち立てた初代の君主たち。例:劉邦・光武帝・太宗自身。
- 守文君主(しゅぶんくんしゅ):創業者の後を継いで体制を維持することを任とする皇帝。しばしば驕奢の弊に陥る。
- 稼穡(かしょく):農業、田畑の耕作と収穫。
- 紡績(ぼうせき):糸を紡ぎ、織物を作る工程。衣を得るまでの庶民の労苦の象徴。
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