P社やB社の事例は、能率や品質の向上だけに囚われ、企業の本質的な成長や安定を見失ってしまった典型例だ。これらの企業に共通するのは、「顧客主義」ではなく「能率主義」に傾倒し、変化する市場や顧客ニーズへの対応を後回しにしている点である。この姿勢がもたらすのは、短期的な成果の追求であり、長期的な視点に立った事業の進化や持続可能性を損なう結果となる。
P社の事例:限界に達した能率向上
現状:技術的限界に直面
P社の会長は、電線の直径ばらつきを減らすことでコスト削減を図ろうとしている。しかし、P社は創業以来この課題に取り組み続けており、現在は技術的に限界に近い段階に達している。これ以上の改善を目指せば、逆にコストが増大するリスクさえある。
誤った優先順位
会長の主張は、能率向上によるコスト削減に固執するあまり、将来の収益を支える新事業の可能性を完全に無視している。これは、「既存事業で何とかなる」という幻想を抱いた観念論に過ぎない。
教訓:新事業の不可欠性
既存事業での限界が明らかである以上、新しい収益源を確立する必要がある。増加し続ける人件費や経費を賄うには、能率向上だけでは対応できない。新商品の開発や新事業への取り組みが、未来への投資として欠かせないものである。
B社の事例:成長産業を軽視する職人経営
公害防止フィルターの重要性
B社の公害防止フィルターは、成長産業であり、高収益をもたらす重要な新商品だ。しかし、社長はこれを「継子」のように扱い、積極的に推進する姿勢を示していない。社内報でも取り上げられることはなく、社長の方針が全く示されていない。
偶然の成功に依存する危険性
現在は市場の変化がプラスに作用しているため、公害防止フィルターが企業全体を支える柱の一つとなっている。しかし、もし市場の状況が変わり、この分野の需要が低下した場合、何の手立ても打たずに赤字転落に陥るリスクがある。
教訓:戦略的な多角化の必要性
B社は、公害防止フィルターを自動車用フィルターと並ぶ事業の柱として位置づけ、積極的に拡大戦略を進めるべきである。単なる偶然に頼るのではなく、市場の動向を見据えた戦略的な意思決定が求められる。
能率主義の限界と顧客主義への転換
能率主義の限界
能率や品質向上は初期段階では大きな効果をもたらすが、次第に効果が薄れ、やがてコストに見合わなくなる段階に達する。一方で、人件費や経費は増え続け、既存事業だけでは収益を維持できなくなる。この「能率の亡者」となる姿勢は、企業の長期的な存続を危うくする。
顧客主義へのシフト
能率主義に囚われるのではなく、顧客主義に徹することが重要だ。顧客のニーズや市場の変化を第一に考え、それに適応する形で事業を進化させる姿勢が、企業の存続と成長を支える基盤となる。
新事業開発の重要性
既存事業の収益が限界に達している場合、新事業や新商品の開発にリソースを投入するのは当然の経営判断である。これには、リスクを伴うものの、未来の収益を支える柱を築くという不可欠な目的がある。
顧客主義を実現するためのアプローチ
1. 市場調査と顧客理解
市場の変化や顧客ニーズを定期的に調査し、事業戦略に反映させる。この活動は、現場で得られる生の情報を経営に活かすため、社長自らが主導することが望ましい。
2. 成長分野への投資
現在の収益を支えている商品やサービスが成長分野に属しているかを見極め、重点的にリソースを投入する。B社の公害防止フィルターのように、収益性の高い商品を積極的に育てるべきだ。
3. 長期的視野での経営
短期的な能率向上やコスト削減だけに頼るのではなく、長期的な視点で事業の多角化や新市場への参入を計画する。
4. 組織全体での方向性共有
新事業や新商品の重要性を社内で共有し、組織全体が一丸となって推進できる体制を整える。社内報や会議などを活用し、経営者のビジョンを明確に示すことが必要だ。
結論: 顧客主義こそ未来を築く鍵
能率主義は、短期的には成果をもたらすものの、限界に達したとき、企業の未来を閉ざしてしまう危険性がある。これを回避するためには、顧客主義に基づく経営を徹底し、市場の変化に柔軟に対応する姿勢が求められる。
市場動向を見極め、新しい収益源を育てることで、企業は初めて持続的な成長を実現できる。「顧客の変化に対応する経営」を念頭に置き、既存事業の改善と新事業の開発の両輪で、安定した成長を目指すべきである。
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