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利益ばかりを考えているといずれだめになる

利益を追うばかりでは、最終的に破綻する

宋牼が、戦争を止めるために秦王や楚王に説得しようとした際、孟子は言った。
「もし先生が利を理由に戦争を止めさせるなら、戦争が止まった後も、その利を求める心が残ります。全軍の将士は戦争の停止を楽しみつつ、その利益を喜ぶでしょう。しかし、もし臣下が利益を追って君に仕え、子が利益を追って父に仕え、弟が利益を追って兄に仕えるようになれば、君臣・父子・兄弟の間に仁義はなくなり、ただ利益だけが支配する関係になってしまいます。そうなった場合、国は必ず滅びます。」

さらに、孟子は続けてこう語る。
「一方、もし先生が仁義を理由に戦争を止めさせたなら、戦争が止まった後、全軍の将士は仁義を喜び、同様にその後も仁義に基づいて仕えることになります。臣下は仁義を持って君に仕え、子は仁義を持って父に仕え、弟は仁義を持って兄に仕え、仁義が君臣・父子・兄弟の関係を支配することになる。こうした国は、王者の道を歩み、滅びることはありません。」

孟子は最終的に言う。
「だからこそ、先生も利益を理由にすることなく、仁義を説くべきなのです」
利益に執着することは、その場しのぎの安定を生みますが、長期的には国家や人間関係の根本が損なわれ、必ず破綻に至ると警告しています。


原文と読み下し

先生以利說秦・楚之王、秦・楚之王悅於利、以罷三軍之師、是三軍之士、樂罷而悅於利也、
為人臣者、懷利以事其君、為人子者、懷利以事其父、為人弟者、懷利以事其兄、
是君臣・父子・兄弟、去仁義、懷利以相接、然而不者、未之有ざるなり。
先生以仁義說秦・楚之王、秦・楚之王悅於仁義、而罷三軍之師、是三軍之士、樂罷而悅於仁義也、
為人臣者、懷仁義以事其君、為人子者、懷仁義以事其父、為人弟者、懷仁義以事其兄、
是君臣・父子・兄弟、去利、懷仁義、以相接也、然而不王者、未之有ざるなり。
何必曰利。


※注:

  • 三軍の師(さんぐんのし):軍隊。三軍とは、戦争のために準備された大軍を指し、約37,500人の規模を意味する。
  • 相接する(そうせっする):互いに接する、関わる。ここでは、利や仁義を基にした人間関係の接し方を意味する。
  • 去仁義、懷利:仁義を捨て、利益を追求すること。孟子が警戒している、利を最優先にする態度。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • beyond-temporary-gain(一時的な利益を超えて)
  • long-term-values(長期的な価値)
  • pursue-virtue-not-profit(利益ではなく徳を追求せよ)

この章では、孟子が利だけを追うことの危険性と、仁義を基盤にした持続可能な社会の重要性を強調しています。

目次

『孟子』公孫丑章句下より

1. 原文

先生以利說秦・楚之王、秦・楚之王悅於利、以罷三軍之師、是三軍之士、樂罷而悅於利也。爲人臣者、懷利以事其君、爲人子者、懷利以事其父、爲人弟者、懷利以事其兄、是君臣・父子・兄弟、去仁義、懷利以相接、然而不亡者、未之有也。

先生以仁義說秦楚之王、秦・楚之王悅於仁義、而罷三軍之師、是三軍之士、樂罷而悅於仁義也。爲人臣者、懷仁義以事其君、爲人子者、懷仁義以事其父、爲人弟者、懷仁義以事其兄、是君臣・父子・兄弟、去利、懷仁義、以相接也、然而不王者、未之有也。何必曰利。


2. 書き下し文

先生、利を以(もっ)て秦・楚の王に説(と)かんに、秦・楚の王、利を悦(よろこ)び、以て三軍の師(し)を罷(や)めば、是(こ)れ三軍の士、罷むるを楽しみて利を悦ばん。

人の臣たる者、利を懐(いだ)きて以て其の君に事(つか)え、
人の子たる者、利を懐きて以て其の父に事え、
人の弟たる者、利を懐きて以て其の兄に事えば、

是れ君臣・父子・兄弟、仁義を去り、利を懐きて以て相接(まじ)うるなり。

然(しか)り而(し)て亡(ほろ)びざる者は、未だ之有らざるなり。

先生、仁義を以て秦・楚の王に説かんに、秦・楚の王、仁義を悦び、而して三軍の師を罷めば、是れ三軍の士、罷むるを楽しみて仁義を悦ばん。

人の臣たる者、仁義を懐きて以て其の君に事え、
人の子たる者、仁義を懐きて以て其の父に事え、
人の弟たる者、仁義を懐きて以て其の兄に事えば、

是れ君臣・父子・兄弟、利を去り、仁義を懐きて以て相接するなり。

然り而して王たらざる者は、未だ之有らざるなり。

何ぞ必ずしも利と曰わんや。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 「先生が“利益”をもって秦や楚の王を説得し、彼らが利益を喜んで軍を退かせたとする。そうなれば、兵士たちも撤退を喜び、利益をよしとするようになる。」
  • 「すると、臣下は利益で君主に仕え、子は利益で父に仕え、弟は利益で兄に仕えるようになる。」
  • 「こうなれば、君臣・父子・兄弟の関係は“仁義”を捨て、“利”でつながる関係になる。」
  • 「そしてそのような社会で、最終的に滅びなかった例はない。」

  • 「もし先生が“仁義”をもって王たちを説得し、王たちが仁義に感動して軍を退かせたら、兵士たちもまた仁義をよしとして撤退を喜ぶだろう。」
  • 「そして臣下は仁義をもって君主に仕え、子は仁義をもって父に仕え、弟は仁義をもって兄に仕えるようになる。」
  • 「このようにして、君臣・父子・兄弟の関係が“利”ではなく、“仁義”によって結ばれた社会となる。」
  • 「そうした国で、王道政治が行われなかった例はない。」
  • 「それならば、なぜわざわざ“利”を説く必要があるのか。」

4. 用語解説

  • 先生:孟子がここで諭す相手(宋牼など)、または仮定上の知識人を指す。
  • 三軍の師:国家の軍隊。将兵全体のこと。
  • 懐利(かいり):利益を求め、利己心をもって行動すること。
  • 相接(まじわる):互いに関わりを持つ。人間関係を結ぶこと。
  • 仁義:儒教の根本的徳目。仁=思いやり、義=道理・正義。
  • 王たらざる者は、未だ之有らざるなり:仁義によって治めた場合、王道政治が実現しなかったことはない、という強い断言。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

もし戦争を止めるために“利益”で王を説得すれば、王も兵も利益をよしとし、国全体が“利”によって動くようになる。
すると、すべての人間関係──君と臣、親と子、兄と弟──が「利」を基盤に築かれることになり、
そのような社会が最後に滅びなかったことはない。

一方で、“仁義”をもって王を説得し、王も兵も仁義をよしとするようになれば、社会は利ではなく仁義によって結びつくことになる。
そしてそのような社会では、必ず“王道(道義的支配)”が実現される。

だからこそ、「なぜ“利”を説く必要があるのか」と孟子は問いかける。


6. 解釈と現代的意義

この章句は孟子の核心思想──「利ではなく仁義を根本とすべし」──を端的に表す一節です。

孟子は、目先の利益による行動が、いかに社会の人間関係を損なうかを鋭く指摘しています。
一時的に戦争を回避できたとしても、その理由が“利”である限り、人々の関係性も“打算”に基づくものになり、やがては社会が崩壊していくと論じています。

これに対し、仁義=「思いやりと正義感」で社会を構築すれば、持続的で信頼ある関係が築かれ、真の安定と繁栄が得られるという理想を説いています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

❖「利を超えた“理念”で組織を動かす」

報酬・インセンティブ・ノルマなど、“利”で社員を動かす会社は短期成果を出せるが、信頼や倫理が脆くなる
対して、「この仕事には社会的意義がある」「私たちは信義を重んじる」といった理念・仁義で動く組織は持続的で強い

❖「取引先との関係にも“仁義”を」

価格や条件だけでなく、「お互いの信頼」「共に成長する関係性」に価値を置くことが、長期的なパートナーシップを築く鍵となる。

❖「“利”でつながる人間関係は壊れやすい」

人間関係やチームビルディングも、「得になるから付き合う」という関係は脆く、裏切りや離反を招く。
“仁義”──共感と誠実な対応こそが、人と人とをつなぐ本質的な力である。


8. ビジネス用心得タイトル:

「利益より信義──仁義に立脚せよ、永続の組織はそこから生まれる」


この章句は、現代の企業経営・人事戦略・倫理経営においても強い示唆を持ちます。

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