自分自身のふるまいや心がけについては、あまりに潔癖すぎてはならない。
この世の中には、よごれやけがれ、理不尽や不快な出来事も多くある。
そうした一切を受け止められる懐の深さと忍耐の器量がなければ、
社会を円滑に渡り歩くことは難しい。
また、人とつきあうときには、好き嫌いや善悪・賢愚といった線引きを、あまりに明確にしすぎてはならない。
人間社会には、良い人・悪い人、賢い人・愚かな人、さまざまな人が存在する。
そのすべてを受け入れ、広く包み込める度量が、豊かな人間関係を築く鍵となる。
『論語』の言葉にも「君子は周して比せず(=広く交わって偏らず)」とあるように、
君子たる者は、特定の人にだけ寄り添うのではなく、偏りなく全体を包む精神を持つべきである。
清濁併せ呑み、すべての関係に柔らかく向き合える力こそ、真のリーダーシップと人間的な深みを形づくる。
原文(ふりがな付き)
「身(み)を持(じ)するは、太(はなは)だ皎潔(こうけつ)なるべからず。
一切(いっさい)の汚辱垢穢(おじょくこうわい)も、茹納(じょのう)し得(え)んことを要(よう)す。
人(ひと)に与(くみ)するは、太(はなは)だ分明(ぶんめい)なるべからず。
一切の善悪(ぜんあく)・賢愚(けんぐ)をも、包容(ほうよう)し得んことを要す。」
注釈
- 皎潔(こうけつ):純白で清らかなこと。転じて、潔癖すぎる態度。
- 汚辱垢穢(おじょくこうわい):けがれ、不浄、屈辱など、俗世の汚れや醜さ。
- 茹納(じょのう):柔らかく受け入れること。のみ込む、受け止める度量。
- 分明(ぶんめい):物事をはっきりと分けすぎること。白黒思考。
- 包容(ほうよう):人のさまざまな面を受け入れ、包み込むこと。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(潔癖を超え、すべてを抱け)inclusiveness-is-strength
(包容力は力である)don’t-divide-people
(人を分け隔てるな)
この条は、「清らかであろう」とする理想を、過剰な拒絶に変えてはならないという警告でもあります。
私たちは不完全な人間同士の中で生きているからこそ、寛容さ・柔軟さ・器量の大きさが、社会を円滑にし、自身の成長も促してくれるのです。
1. 原文
持身不可太皎潔。一切汚辱垢穢、茹納得。
與人不可太分明。一切善惡賢愚、包容得。
2. 書き下し文
身を持するは、太だ皎潔(こうけつ)なるべからず。一切の汚辱(おじょく)・垢穢(こうわい)も、茹納(じょのう)し得るを要す。
人に与(くみ)するは、太だ分明(ぶんめい)なるべからず。一切の善悪・賢愚も、包容(ほうよう)し得るを要す。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「自分を律するにあたって、あまりにも潔癖すぎてはいけない」
→ あらゆる汚れや侮辱、不完全さをも受け入れられる寛容さが必要だ。 - 「他人との関係においては、白黒をはっきりさせすぎてはいけない」
→ 善悪や賢さ・愚かさの区別にこだわらず、全体を受け入れる心が大切。
4. 用語解説
- 皎潔(こうけつ):白く清らかで、少しの汚れも許さないような潔癖さ。
- 汚辱(おじょく)・垢穢(こうわい):屈辱や穢れ。精神的・道徳的な汚れ。
- 茹納(じょのう):しなやかに受け入れる、柔軟に受容すること。
- 分明(ぶんめい):区別が明確すぎること。善悪・損得などにおいて割り切りが激しい態度。
- 包容(ほうよう):広く包み込んで受け入れること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
自分の生き方においては、潔癖にすぎてはならず、多少の汚れや屈辱も柔軟に受け入れられるようでなければならない。
人との関係においても、善悪や賢愚をはっきりさせすぎず、すべてを包み込む寛容さが求められる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「潔癖すぎることの危うさ」と「寛容さの大切さ」**を説いています。
- 高潔であろうとするあまりに、他人や社会の不完全さを排除してしまえば、孤立と摩擦を生む。
- 自分を律する強さと同時に、「他者や現実の矛盾をも受け入れる柔らかさ」が必要。
- 人間関係でも、白黒つけすぎず、曖昧さや不完全さを包み込むことで、より深い信頼関係が築かれる。
この句は、完璧を追いすぎることによって生まれる弊害と、柔軟性の徳を教えてくれます。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「完璧主義は、成果を妨げることがある」
- 自己に対して潔癖すぎると、失敗を恐れて動けなくなる。
- ビジネスにおいては、多少の泥をかぶる覚悟や、現実との折り合いが必要。
●「人間関係は“白黒思考”では築けない」
- 部下や同僚を、能力や性格で“善悪・有能無能”と切り分けてしまうと、信頼は生まれない。
- 多様な背景や価値観を“包容”することで、組織全体の創造性と協調が促進される。
●「リーダーは“不完全さを抱擁する度量”が必要」
- トラブルや不正、部下の失敗も受け入れ、成長の機会に変えられる柔らかさが、本物のリーダーシップ。
8. ビジネス用の心得タイトル
「潔癖すぎず、分別しすぎず──寛容が人と組織を生かす力」
この章句は、現代の「成果主義」「白黒思考」が生みやすい人間関係の断絶に対して、深い洞察を与えてくれます。
- 完璧であろうとするがあまり、他者を裁き、失敗を恐れ、孤立する。
- だが人と組織は、“不完全なまま共存し、成長する”ことで成熟していく。
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