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名誉や善をも超えて、自由な境地に至る

功績を立てたい、名声を得たい、富や地位を手に入れたい――
こうした欲を手放すことができれば、
すでに世俗的な生き方からは一歩抜け出したといえる。
しかし、さらにその上を目指すならば、
道徳や仁義といった「善」にとらわれる心さえも静かに手放し、
すべての価値判断や義務感を越えた、
自由自在の心境に至らねばならない。
それは「上徳は徳とせず」と語る『老子』にも通じる、
本物の聖人の境地である。
道や善を語らずとも、自然とそれに適った在り方――
それこそが、真に高潔な生である。


「功名(こうみょう)富貴(ふうき)の心(こころ)を放(はな)ち得(う)下(くだ)して、便(すなわ)ち凡(ぼん)を脱(だっ)すべし。
道徳(どうとく)仁義(じんぎ)の心を放ち得下して、纔(わず)かに聖(せい)に入(い)るべし。」


注釈:

  • 功名富貴(こうみょうふうき)…功績によって得られる名誉や、地位と財産。世俗的な成功の象徴。
  • 放ち得下して(はなちうるくだして)…捨て去り、心の奥から抑えることができる状態。
  • 凡(ぼん)を脱す…平凡で俗な境地から抜け出すこと。
  • 道徳仁義(どうとくじんぎ)…倫理や道徳、善とされる行い。儒教的価値観の中心。
  • 纔かに聖に入る(わずかにせいにいる)…やっとのことで、聖人のような完全なる人格に至ること。
目次

1. 原文

放得功名富貴之心下、可脫凡。
放得德仁義之心下、纔可入聖。


2. 書き下し文

功名富貴の心を放ち得て下せば、すなわち凡を脱すべし。
道徳仁義の心を放ち得て下せば、纔かに聖に入るべし。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「功名富貴の心を放ち得て下せば、すなわち凡を脱すべし」
     → 名誉や財産への執着を手放すことができれば、凡人の域から脱することができる。
  • 「道徳仁義の心を放ち得て下せば、纔かに聖に入るべし」
     → さらに、徳や仁義すらも執着なく手放すことができてこそ、聖人の境地に至ることができる。

4. 用語解説

  • 功名(こうみょう):功績と名声。世間的な成功、評価。
  • 富貴(ふうき):財産や地位、裕福さと高い身分。
  • 放得〜之心下(〜の心を放ち得て下す):その対象に対する心の執着を手放す、解き放つという意味。
  • 脫凡(だつぼん):凡人の境地を脱すること。
  • 德仁義(とく・じん・ぎ):道徳心、人への慈しみ、正義。儒家思想の中核的価値。
  • 纔(わず)かに:ようやく、かろうじて、という意。厳しい条件を越えて得られることの強調。
  • 入聖(にゅうせい):聖人の域に達すること。精神的完成、悟りの境地。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

名誉や財産に対する執着心を捨て去ることができれば、私たちは凡人の次元から抜け出せる。
だがさらに、道徳・仁愛・正義といった“高尚な価値”への執着すら手放すことができて、ようやく聖人の境地に入ることができるのだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「二重の手放し」**を通じて人間の精神的成熟を説いています。

第一段階では、「世俗の欲」(名誉や財産)を捨てることによって凡人から抜け出します。
しかし第二段階では、より難しい「善への執着」すらも超越し、自己のエゴやこだわりを完全に手放すことで、真の聖人=悟りの境地に至るとします。

ここで言う“放下”は、単なる無関心や放棄ではなく、自由な心・しなやかな在り方を目指す精神の訓練です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 成功の執着が判断を誤らせる

昇進、報酬、名声――こうした功名心・富貴心が過剰になると、正しい判断ができなくなり、リスクや不正に手を染めやすくなります。欲望の手放しが、ブレない判断力を支えます。

● 「正しさ」に固執するリーダーは、組織を硬直させる

道徳・正義・理想は重要ですが、**それに“縛られる”と柔軟性を失い、他人を責める口実にもなります。**真に成熟したリーダーは、価値観にとらわれず、「今何が最善か」を冷静に見極められる人です。

● 本質的リーダーシップとは「無我」から生まれる

“聖に入る”とは、利己でも利他でもない「自然体の行為」を指します。過剰な自己主張も、過度の善意もなく、淡々と正しいことを行う──これが、現代における本質的なリーダーの姿です。


8. ビジネス用の心得タイトル

「欲を手放し、善も手放す──無私が導く“自在の境地”」


この章句は、ビジネスにおける“成功の呪縛”と“善意の落とし穴”の両方を乗り越えるヒントを与えてくれます。


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