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■引用原文(『ダンマパダ』第十三章 第175偈)
白鳥は太陽の道を行き、神通力による者は虚空を行き、心ある人々は、悪魔とその軍勢にうち勝って世界から連れ去られる。
― 『ダンマパダ』第175偈(中村元訳)
■逐語訳(逐文的な意味の解釈)
- 白鳥は太陽の道を行き:白鳥は光ある方(太陽の進路)へ飛翔する。清らかで高貴な存在の象徴。
- 神通力による者は虚空を行き:超常の力(神通力)を得た修行者は、物理法則を超えて空中を自在に動ける。
- 心ある人々は:智慧と修行を積んだ正覚者たちは、
- 悪魔とその軍勢にうち勝って:煩悩や誘惑(マーラとその軍勢)との闘いに勝利して、
- 世界から連れ去られる:輪廻(サンサーラ)を離れ、解脱へと到達する。
■用語解説
- 白鳥(ハンサ):仏教やインド哲学では、清浄・智慧・霊性の象徴。悟りに至る者を象徴することが多い。
- 太陽の道:真理・光明の方向。象徴的に「解脱」や「聖なる歩み」を意味する。
- 神通力(アビニャー):高度な修行によって得られる超能力的境地。だが象徴的には「精神的自由」の比喩でもある。
- 悪魔(マーラ)とその軍勢:煩悩・誘惑・怒り・無知など、精神の自由を妨げる力。
- 世界から連れ去られる:この「世界(ローカ)」は輪廻の迷いの場であり、それを超えて悟りの境地に至ること。
■全体の現代語訳(まとめ)
「白鳥は光の道をたどって天へ飛ぶ。神通力を得た者は、空を超えて進む。
そして、智慧ある修行者は、内なる悪魔とその軍勢に打ち勝ち、ついにはこの世界(輪廻)を超えて解脱する。」
――これは、精神の成熟と克己によって、人間があらゆる束縛を超えてゆけることを表す詩的教訓である。
■解釈と現代的意義
この偈は、三種の超越を語ります:
- 白鳥――純粋さによる高貴な生き方の象徴。
- 神通者――訓練された力で物理的制限を超える者。
- 心ある人――智慧と意志によって、内なる敵(煩悩)に勝つ者。
この順序は、**「自然の美徳 → 技術的な力 → 精神的完成」**という進化の階梯とも読めます。
現代に生きる私たちもまた、外的な成功や能力以上に、「内面の勝利」こそが究極の自由・幸福・成熟であることを忘れてはならないという教えです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
精神的リーダーシップ | スキルや知識だけではなく、欲望や怒り、恐れといった内的な敵を克服することで、本当の信頼と影響力が生まれる。 |
倫理的勝利 | 外的な競争だけでなく、「自我」「傲慢」「慢心」などの内なる障害を克服してこそ、持続可能な成長が可能。 |
持続的幸福の源 | 他者との競争ではなく、自分自身の中の煩悩との闘いに勝つことが、真の満足感と精神的成功につながる。 |
生涯成長の道 | 知識(白鳥)→能力(神通)→自己超越(煩悩克服)という三段階を、自己成長のモデルとして応用できる。 |
■心得まとめ
「内なる敵に勝つ者こそ、真に自由な人である」
この偈は、智慧ある人とは誰か、何が真の勝利かを明確に示しています。
他人に勝つことではない。自分の中にある貪り、怒り、迷い、虚栄心に打ち勝つこと。
その克己の果てに、人はこの世界(苦しみと束縛)を超えて自由になれる――まるで、光の空を飛ぶ白鳥のように。
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