孟子は、数ある人間の欠点のなかでも、**「他人を教え導く者のごとく振る舞いたがる傾向」**を強く戒めている。
「人の患(うれ)いは、好んで人の師と為るに在り」
これは、単なる教師や学者に限らず、**あらゆる場面で人の上に立とうとする「態度」**への警告である。
◆ “人の師”であろうとすることの落とし穴
孟子が問題にするのは、
- 自己の修養も不十分でありながら、他人を教えたがる態度である。
- つまり、自分を省みることよりも、他人を教え導くことに快感を覚えてしまう傲慢さ。
このような人は、次のような心理に陥りやすい:
- 「自分は分かっているつもり」
- 「相手に教えてあげたいという善意」
→ しかしそれは多くの場合、自己顕示や支配欲の裏返しに過ぎない。
孟子がこの短い言葉に込めたのは、真に人を導く者とは、常に己を修める者でなければならないという深い戒めである。
目次
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)の患(うれ)いは、好(この)んで人の師(し)と為(な)るに在(あ)り。
注釈
- 患(うれ)い/患い:人として陥りやすい過ち、欠点、危うさ。
- 好んで人の師となる:人を教えることを好み、やたらと他者の上に立ちたがる傾向。
- 師(し):学校の先生に限らず、人生や価値観を語って他人に影響を及ぼそうとする立場のすべて。
この「師となりたがる病」は、現代のSNSやネット言論空間でも頻繁に見られるものであり、孟子の警句は非常に現代的でもある。
パーマリンク案(英語スラッグ)
- beware-the-teaching-urge(教えたがりに注意せよ)
- do-not-rush-to-be-a-master(急いで師になろうとするな)
- true-mastery-begins-with-self-discipline(真の師は自己修養から)
- teaching-without-wisdom-is-vanity(知恵なき指導は虚栄)
この章は、孟子の自己反省と謙虚さの美徳を体現したような教えです。
「本当の教師とは、己を深く知る者」――その厳しくも暖かいまなざしは、現代のリーダー、親、教育者、上司など、あらゆる「導く者」に向けられています。
原文
孟子曰、人之患、在好爲人師。
書き下し文
孟子曰(いわ)く、
人の患いは、人の師(し)たらんことを好むに在り。
現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 孟子は言った:
- 人間の悩みや過ちは、他人の教師になりたがるところにある。
用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
患(うれい) | 災い、悩み、過ち、問題の根源。 |
好んで | 〜を好む、積極的に〜したがる。 |
人の師(ひとのし) | 他人を教え導く者、つまり「他人に教訓を垂れる立場」「上から目線の先生」的な振る舞い。 |
全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「人の過ちの多くは、他人の指導者になろうとする姿勢に原因がある。」
解釈と現代的意義
この章句は、“上から目線”で他人に教えたがる態度を戒めるものです。
孟子は、**人間の根本的な過ちは「他人を教えたがる自己満足」**にあると指摘します。
● 自分自身の修養を忘れ、他人ばかり正そうとする
- 「あの人はダメだ」「ああしろ、こうしろ」と説教をしたがる人は、往々にして自分自身を省みることを忘れがちです。
● “人の上に立ちたい欲望”がもたらす弊害
- 知識や経験を持っている人ほど、つい“他人を導く立場”に居たがる。しかしそこに慢心が生まれやすくなる。
ビジネスにおける解釈と適用
1. リーダーは「教える」より「共に学ぶ」姿勢が必要
- 優れたマネージャーは、部下に「押し付ける」のではなく「問いかけ、気づかせる」ことで育成する。
- 指導とは一方的な命令ではなく、双方向の信頼に基づく対話であるべき。
2. “自分が正しい”という態度がチームの分断を生む
- 「俺の言うことを聞け」「自分のやり方が正しい」と考える人は、周囲との信頼関係を壊しやすい。
- 他人の立場・背景に敬意を払わないリーダーは、孤立を招く。
3. まず自らを省みること
- 他人を導く前に、自分の行動・姿勢が「手本」となっているかを常に問い直すべき。
- これはリーダーシップだけでなく、日常のすべての人間関係に通じる普遍的な原則です。
ビジネス用心得タイトル
「教えたがりは失敗のもと──導くより、自らを省みよ」
この短い章句には、
**「自己満足的な指導の危険性」と「本当の学びは内省から始まる」**という孟子の深い洞察が凝縮されています。
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