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名を好む者は、道義を偽る――最も危うい偽善の姿

私利私欲をむき出しにして行動する者は、あからさまに道義から外れているため、誰の目にもその害が見えやすく、被害も比較的浅くて済む
その姿は露骨で、警戒しやすいため、周囲もある程度対応できる。

しかし、名声や評判を欲しがる者は、道義の「名」をまといながら、その中に潜んで悪事を働く
こうした者は表面上は「正義」「誠実」「徳の人」を装っているため、
その害は隠れていて深く、取り返しのつかないほど重大な結果をもたらすことがある

これはまさに「偽善」の危険性であり、外から見えにくい悪の本質である。
『孫子』が最も恐れる「反間(はんかん)」――味方のふりをして内側から崩す者――と通じるものがあり、
正義・平和・公平といった美名のもとに、実は己の利益を追求しているような存在ほど、見極めにくく、深い害を及ぼすのだ。


原文(ふりがな付き)

「利(り)を好(この)む者(もの)は、道義(どうぎ)の外(そと)に逸出(いっしゅつ)し、
其(そ)の害(がい)顕(あら)われて浅(あさ)し。

名(めい)を好む者は、道義の中(うち)に竄入(ざんにゅう)し、
其の害、隠(かく)れて深(ふか)し。」


注釈

  • 逸出(いっしゅつ):はみ出すこと。道義の枠からあからさまに外れていること。
  • 竄入(ざんにゅう):こっそり入り込むこと。わからないように紛れ込む。
  • 名を好む者:名声や評判、世間の評価を強く求める人。ええかっこしい。
  • 道義の中に竄入:正義・道徳のふりをして、裏では不正を働く。
  • 害、隠れて深し:表面では善人に見えるため、その悪影響に気づきにくく、結果として重大な害を及ぼす。

パーマリンク候補(英語スラッグ)

  • beware-hidden-harm-of-fame-seekers(名声を求める者の隠れた害に注意せよ)
  • visible-greed-is-less-dangerous-than-fake-virtue(見える欲より偽善が怖い)
  • bad-behind-good-words(良き言葉の裏に悪あり)

この条は、「正しい言葉」や「立派な態度」に騙されるなという、現代にも鋭く通じる警句です。
SNSやメディア、政治の世界でも「善意や正義の仮面をかぶった私欲の行動」は数多く存在します。
本当の誠実さとは、他人の評価ではなく、行いと動機に基づくものであるという信念が、私たちの中に必要です。

1. 原文

好利者、逸出於義之外、其害顯而淺。
好名者、竄入於義之中、其害隱而深。


2. 書き下し文

利を好む者は、義の外に逸出し、其の害、顕れて浅し。
名を好む者は、義の中に竄入(ざんにゅう)し、其の害、隠れて深し。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 「利益を追い求める者は、道義の外に逸れてしまう。こうした害は目に見えており、浅いものである」
     → 欲得に走る姿勢は周囲にも分かりやすく、制御もしやすい。
  • 「名誉を求める者は、道義の中に潜り込む。この害は目立たず、むしろ深刻である」
     → 表面上は正義や公のために見えるが、内にある虚栄心は気づきにくく、根が深い。

4. 用語解説

  • 好利(こうり):利益や金銭を追い求めること。
  • 逸出(いつしゅつ):はみ出すこと、枠を超えて外れること。
  • 義(ぎ):道徳・正義・倫理的な原則。
  • 好名(こうめい):名声・評価を求めること。
  • 竄入(ざんにゅう):ひそかに潜り込むこと。
  • 顯(けん):あらわれる、目に見える。
  • 淺(せん):浅い、軽度である。
  • 隱(いん):隠れて見えない。
  • 深(しん):深刻で根が深いこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

利益を追い求める人は、道義から逸脱しやすく、その弊害は目に見えて分かりやすい。
一方、名誉を求める人は、正義の名のもとに欲を隠し持つことがあり、その害は見えにくく、かえって深刻である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「欲望には“外に現れるもの”と“内に潜むもの”がある」**ことを示しています。

  • 「利を追う人」は露骨な行動が多く、批判や修正がしやすい。
  • 「名を追う人」は道義や正義の衣をまとっているため、他人だけでなく自分自身もその欲に気づかないことがある。

つまり、「名誉欲」というのは、偽装されたエゴであり、より危険であると教えています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「利を求める行動は管理しやすい」

  • 売上・利益・報酬の追求は目に見えるため、制度や仕組みで制御可能
  • たとえば、成果主義の行き過ぎを評価制度で是正できる。

●「名誉欲に潜む危険性」

  • 「会社のため」「社会のため」と称しても、実は自己顕示欲や承認欲求が動機になっているケースがある。
  • これは、自浄が困難で、組織内で“善の皮をかぶった独善”として拡大しかねない。

●「リーダーの“自己認識力”が鍵」

  • 役職や称賛に執着するリーダーは、組織を私物化する恐れがある。
  • 真に優れたリーダーは、評価よりも“何を成したか”を基準にする

8. ビジネス用の心得タイトル

「“名誉の仮面”を見抜け──正しさに潜む欲望の影」


この章句は、「目に見える欲よりも、目に見えない欲のほうが怖い」という深い洞察を与えてくれます。

  • 成果主義の副作用を知るだけでなく、名誉主義の危険性を自覚する。
  • 「正しさ」や「貢献」に見える行為こそ、動機の透明性が問われる。
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