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小国でも、仁政を行えば大国に勝つ

孟子は恵王の「仇を討って恥をすすぎたい」という願いに対し、こう答える:

「領地がたとえ百里四方しかなくても、王者になることはできる」

それは軍備によってではない。仁政を民に施し、民の心を得ることによってである。

  • 刑罰をできるだけ軽くし、
  • 税を重く取り立てず、
  • 土地を深く耕させ、しっかり管理・除草させ、
  • 青年には農閑期に孝・悌・忠・信の徳を学ばせ、
  • 家庭では父兄に仕え、社会では目上の者に従わせる

こうした政治が行われていれば、武器を手にせずとも、棒きれ一本で、秦や楚のような武装大国の精鋭兵を打ち負かすことすら可能だという。

孟子はここで、力での復讐ではなく「徳に基づいた統治」こそが、最終的に覇を制する道であると説いている。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)対(こた)えて曰(い)わく、地(ち)、方(ほう)百里(ひゃくり)にして以(も)って王(おう)たるべし。王(おう)如(も)し仁政(じんせい)を民(たみ)に施(ほどこ)し、刑罰(けいばつ)を省(はぶ)き、税斂(ぜいれん)を薄(うす)くし、深(ふか)く耕(たがや)し易(おさ)め、耨(ぬ)らしめ、
壮者(そうしゃ)は暇日(かじつ)を以て其(そ)の孝悌忠信(こうていちゅうしん)を修(おさ)め、入りては以て其の父兄(ふけい)に事(つか)え、出(い)でては以て其の長上(ちょうじょう)に事えば、梃(てい)を制(せい)して以て秦(しん)・楚(そ)の堅甲(けんこう)利兵(りへい)を撻(う)たしむべし。」


注釈

  • 仁政(じんせい)…思いやりのある政治。民の幸福を最優先する政策。
  • 税斂(ぜいれん)…税の徴収。ここでは重税を避けることを意味する。
  • 易め(おさめ)…田畑の維持管理。丁寧な農業指導を指す。
  • 耨らしむ(ぬらしむ)…草取りをさせる。農地管理の基本。
  • 孝悌忠信(こうていちゅうしん)…家庭や社会における人倫の基本徳目。
  • 堅甲利兵(けんこうりへい)…堅い鎧と鋭い武器。軍事力の象徴。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • benevolence-over-blades(徳は刃に勝る)
  • rule-by-virtue(徳によって治めよ)
  • strong-by-righteousness(義ある政治が国を強くする)

補足:孟子の戦略思想――徳こそ最強の武器

孟子のこの言葉は、単なる道徳論にとどまりません。
彼は明確に「国家の強さは軍事力ではなく、民心の結集によって成る」と定義しています。

これは、兵法家・孫子が説く「五事」(道・天・地・将・法)のうちの第一義である「道」=民心の一致と深く通じる思想でもあり、孟子自身がそれを理解していたことも示唆されます。

現代においても、真のリーダーシップや国力とは何かを問う際、この孟子の一節は極めて重要な示唆を与えてくれます。
仇を討つための“力”を欲するのではなく、**人を治め、徳をもって心を得る力こそが、王たる者に必要な“強さ”**だと孟子は語るのです。

1. 原文

孟子對曰、地方百里而可以王。
王如施仁政於民、省刑罰、薄稅斂、深耕易耨、
壯者以暇日修其孝悌忠信、入以事其父兄、出以事其長上、
可使制梃以撻秦楚之堅甲利兵矣。


2. 書き下し文

孟子対えて曰(い)わく、地、方百里にして、以(もっ)て王たるべし。
王、もし仁政(じんせい)を民に施し、刑罰を省(はぶ)き、税斂(ぜいれん)を薄(うす)くし、深く耕(たがや)し、易(やす)く耨(くさぎ)らしめば、
壮者(そうしゃ)は暇日(かじつ)を以て、其の孝悌忠信を修め、
入りては以て其の父兄に事(つか)え、出でては以て其の長上に事うれば、
梃(てい)を制(せい)して、以て秦・楚の堅甲利兵を撻(う)つべし。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

  • 「地、方百里にして以て王たるべし」
     → 国土が百里四方しかなくても、仁政を行えば“王者”となれる。
  • 「仁政を民に施し、刑罰を減らし、税を軽くし…」
     → もし王が、民に思いやりある政治を行い、刑罰を軽くして、税も減らし、
  • 「土地を深く耕し、草取りをやさしくさせれば…」
     → 土地をきちんと耕し、草取りも無理なく行わせるようにすれば、
  • 「壮年者は余暇に、孝・悌・忠・信を学び…」
     → 壮年の者は余暇の時間を使って、親孝行や兄弟愛、忠義や誠実を身につけ、
  • 「家では父兄に仕え、外では上司に仕えるならば…」
     → 家では親や兄に仕え、社会では上司に従うならば、
  • 「棒を持ってでも秦・楚の強兵を打ち破れる」
     → 木の棒を武器にしてでも、あの堅い鎧と鋭い武器を持つ秦や楚の軍を打ち破れる。

4. 用語解説

  • 仁政(じんせい):民を思いやり、生活を安定させる徳に基づいた政治。儒家思想の中心概念。
  • 税斂(ぜいれん):租税や物資の徴収。
  • 深耕易耨(しんこうえきどう):よく耕して、軽く草を取らせること。農民に過度な負担をかけない農政のたとえ。
  • 孝悌忠信(こうていちゅうしん):孝=親への敬愛、悌=兄弟の和、忠=誠実に仕える心、信=まこと。儒教の道徳基準。
  • 梃(てい):棍棒。粗末な武器。
  • 秦・楚の堅甲利兵:秦と楚は当時の強国。堅い鎧と鋭い兵器を備える武力国家の象徴。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子は答えた:
「たとえ国土が百里四方しかなくても、仁政を行えば王になれます。
もし王が思いやりのある政治を行い、刑罰を減らし、税を軽くし、農民に深く耕し無理のない草取りをさせれば、
壮年の者たちは余暇に親孝行や兄弟愛、忠義や誠実を学び、
家庭では親兄弟を敬い、外では上司を尊重するようになります。
そのような民であれば、棒を持つだけでも、武力に勝る秦や楚の兵を打ち破ることができるのです。」


6. 解釈と現代的意義

孟子は、**「民の徳が国の力である」**という儒家の本質を、ここで明確に述べています。
国の強さは、兵器や領土の広さではなく、人々が安心して働き、余力をもって徳を修められる環境にあると説きます。

この章句の核心は、「豊かさ=余裕×道徳」という方程式です。
真に強い国は、民が信頼・礼節・忠誠を日常で自然に実践できるような社会であり、
そこでは高度な武器がなくとも、組織的・精神的に圧倒的な力を持つことができるのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

  • 「組織の力は、制度よりも人の徳性に宿る」
     どんなに最新のツールや戦略を備えていても、社員が不信・疲弊・無気力であれば組織は動かない。
     社員に余裕と道徳があれば、棒一本でも結果を出せる。
  • 「働く者に余白を与えることが、創造性と忠誠心を育む」
     長時間労働や過度な成果主義ではなく、“暇日(余白)”を意図的に設計することが、組織文化の深化を生む。
  • 「トップの仁政=現場の信頼」
     負担の軽減、制度の簡素化、公平な評価――これらの“仁政”は、現場の忠誠と能力発揮を引き出す源となる。
     結果的に、競合と比べて物理的に劣っていても、精神的・組織的優位を築ける

8. ビジネス用の心得タイトル:

「人が育ち、心が結集すれば、棒でも勝てる──仁政が組織の最強武器」


この章句は、王者とは何か、強国とは何かを根底から問い直す深い思想を含んでいます。

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