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仁政を行えば、天下は自然と集まる

孟子は、武力による支配を否定した上で、仁をもって政治を行えば、民は自ずから集まると説きます。

そして、「王がもし仁政を施せば…」と仮定し、次のような具体的な未来像を描きます:


天下の人々の心を引き寄せる「仁の吸引力」

  1. 仕官希望者(=優れた人材)「皆、王の朝廷で働きたいと願うだろう」
  2. 農民たち「皆、王の田畑で耕したいと願うだろう」
  3. 商人たち「皆、王の市場で商売をしたいと願うだろう」
  4. 旅人たち「皆、王の国の道を通りたいと願うだろう」
  5. 圧政に苦しむ民たち「自国の暴君を訴えるため、皆、王のもとに駆けつけてくるだろう」

このビジョンは、仁政がもたらすものは単なる徳目の実現ではなく、実際の経済・交通・行政・国際関係における繁栄と安定であることを示しています。


結論:その時、誰もそれを止めることはできない

孟子は断言します。

「このようになれば、天下の人々が王に帰服するのを止めることは、
誰にもできなくなる(孰か能く之を禦めん)」

つまり、仁政は“無敵の吸引力”を持っているということです。
これは前節の「仁者に敵なし」の思想にも連なる、孟子の核心的信念です。


引用(ふりがな付き)

「今(いま)、王(おう)、政(まつりごと)を発(はっ)し、仁(じん)を施(ほどこ)さば――
天下(てんか)の仕(つか)うる者(もの)をして、皆(みな)王の朝(ちょう)に立(た)たんと欲(ほっ)し、
耕(たがや)す者をして、皆 王の野(の)に耕さんと欲し、
商賈(しょうこ)をして、皆 王の市(いち)に蔵(お)かんと欲し、
行旅(こうりょ)をして、皆 王の塗(みち)に出(い)でんと欲し、
天下の其の君(きみ)を疾(にく)ましめんと欲する者をして、皆 王に赴(おもむ)きて訴(うった)えんと欲せしめん。

其(そ)れ是(か)くの若(ごと)くんば、孰(たれ)か能(よ)く之を禦(ふせ)げんや


注釈

  • 仁を施す…思いやりある政治を行うこと。民の安定と尊重を第一にする政治姿勢。
  • 仕うる者…仕官希望者、公務につきたい者たち。
  • 商賈(しょうこ)…行商と店舗商人の総称。
  • 蔵す(おく)…商品を蓄え、商うこと。市場の繁栄を象徴。
  • 行旅(こうりょ)…旅人。国の道路・治安・交通整備の恩恵を受けたい人々。
  • 其の君を疾ましめんと欲する者…自国の暴君に苦しみ、正義を訴えたい民衆。
  • 孰か能く之を禦めん…もはや誰も、それを止めることはできない。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • benevolence-attracts-all(仁はすべてを引き寄せる)
  • unstoppable-rule-of-kindness(止められぬ仁の支配)
  • rule-with-heart-reign-without-force(心で治め、力なしで君臨せよ)

補足:徳は、人と国と時代を超えて集める力を持つ

この章は、孟子の「仁政主義」が単なる道徳の理想ではなく、
**現実的で具体的な政策インパクトをもたらす“システムとしての仁”**であることを明らかにしています。

  • 優秀な人材が集まる
  • 経済が発展する
  • 国際的な信頼を得る
  • 安全と治安が整う
  • 抑圧されている者が救済を求めて集まる

まさに、王道の完成系は「集まる国」であり、「心が集まる国」こそが最強の国だという孟子の思想がここに表れています。

1. 原文

今,王發政施仁,使天下仕者,皆欲立於王之朝,
耕者皆欲耕於王之野,賈人皆欲藏於王之市,
行旅皆欲出於王之塗,天下之欲疾其君者,皆欲赴愬於王。

其若是,孰能禦之!


2. 書き下し文

今、王、政(まつりごと)を発し仁を施さば、
天下に仕うる者をして、皆、王の朝(ちょう)に立たんと欲し、
耕す者をして、皆、王の野に耕さんと欲し、
賈人(こじん)をして、皆、王の市に蔵(ぞう)せんと欲し、
行旅(こうりょ)をして、皆、王の道に出でんと欲し、
天下においてその君を疾(にく)まんと欲する者をして、
皆、王に赴き愬(うった)えんと欲せしめん。

其れ是のごとくば、孰か能く之を禦(ふせ)げんや!


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

  • 「もし王が政治を起こし、仁を施したならば、
     天下の仕官を目指す者たちは、みな王のもとに仕えたいと思うだろう。」
  • 「農民はみな王の領地で農業をしたいと願い、
     商人たちは王の市場に商品を蓄えたいと願う。」
  • 「旅人たちは王の整備した道を通りたいと思い、
     それぞれの国で自国の君主に不満を持つ人々は、
     王のもとへ駆け込み、訴えようとするだろう。」
  • 「それほどに仁政が実現されたならば──
     いったい誰がそれに抗(あらが)うことができようか?

4. 用語解説

  • 發政施仁(はつせいしじん):政治を始め、仁(思いやり、徳)を施すこと。孟子が推奨する王道政治。
  • 仕者(ししゃ):仕官を望む人、官吏志望者。
  • 朝(ちょう)に立つ:朝廷に仕えて公的な職に就くこと。
  • 賈(こ)人:商人。市に出て交易・保管・販売などをする者。
  • 蔵(ぞう)す:商品を置いて商うこと。ここでは“集まって商う”意味。
  • 行旅(こうりょ):旅人。通商・移動・交通の象徴。
  • 塗(と):道、街道。王が治める道の意。
  • 赴愬(ふそ):赴いて訴える。政治の公正さが期待されていることの証。
  • 禦(ふせ)ぐ:防ぐ、抗う。魅力や求心力を止めることの困難さを示す。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

もしあなたが仁政(人に優しい政治)を実施すれば、
すべての人々があなたの国に集まってくる。

優秀な人材はあなたの政府に仕えたいと思い、
農民はあなたの土地で耕作したいと思う。
商人はあなたの市場で商売をし、旅人はあなたの道を通りたがる。
さらに、自国の支配者に不満を抱く人々は、あなたを頼って訴えてくる。

それほどの求心力を持つ政治を前に、
いったい誰がその流れを止めることができようか?


6. 解釈と現代的意義

この章句は、孟子が説く仁政の絶大な吸引力を具体的に描いた場面です。

仁徳に基づいた統治は、「戦わずして天下を取る」ための本質的手段であり、
人々は利によってではなく「信・公正・温情」に惹かれて集まってくる。

国家運営や組織経営の真理として:

人は安心と尊厳を感じられる場所に自然と集まる。
その流れを妨げることは、誰にもできない。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

  • 「組織の文化と風土が、優れた人材を呼び込む」
     採用広告や報酬制度よりも、誠実なマネジメント・透明性・尊重文化
     人材を引き寄せる最大の要因。
  • 「市場が自然と集まる経営とは?」
     誠実な商品開発、公正な価格設定、生活者への本気の共感。
     こうした仁政的な経営は、**宣伝せずとも人が集まる“磁力”**となる。
  • 「信頼されるプラットフォームになるとはこういうこと」
     起業・メディア・流通、どの分野でも、
     信頼・共感・利便性が整えば、「使いたい」「売りたい」「訴えたい」人々が自発的に集まる。
     孟子は2500年前に、サステナブルなプラットフォーム思想を語っていた。

8. ビジネス用の心得タイトル:

「人が集まる器をつくれ──信と仁が最大の資本」


この章句は「組織の魅力は人の流れでわかる」ことを明言しています。
企業・団体・国家を問わず、「誠実さ」「正義」「人を思う心」が根づいていれば、
人材も顧客も市場も自然と集まる。

“仕組みより徳、戦略より仁”──それが人心を得る道。


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