優れた人物は、自らと同じ高みにある者と交わる。
それが一地方、一国、天下――いずれの段階であっても、志を共にする相手を友とすることが、人格の成長と精神の高揚に不可欠である。
そして孟子はさらに進めて説く――
現代に生きる友だけでは足りないならば、時代を越えて、古人を友とせよ。
孟子は万章に語った。
一郷の善士(すぐれた人物)は一郷の善士を、一国の善士は一国の善士を、天下の善士は天下の善士を友とする。
だが、天下の賢人を友とすることすら足りないと感じる者は、さらに古人を研究し、学び、その心に触れる。
そのためには、ただ詩を詠み、書を読むだけでなく、その人物の生きた時代背景や精神を深く知ろうと努めるべきだ。
時代を論じ、その人となりを理解してこそ、古人を本当に友とすることができる。
これが「尚友(しょうゆう)」の意である。
出典原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)、万章(ばんしょう)に謂(い)いて曰(いわ)く、
一郷(いっきょう)の善士(ぜんし)は、斯(こ)れ一郷の善士を友(とも)とす。
一国(いっこく)の善士は、斯れ一国の善士を友とす。
天下(てんか)の善士は、斯れ天下の善士を友とす。
以(もっ)て天下の善士を友とするを未(いま)だ足(た)らずと為(な)すや、又(また)古(いにしえ)の人を尚論(しょうろん)す。
其(そ)の詩(し)を頌(しょう)し、其の書(しょ)を読(よ)むも、其の人を知(し)らずして、可(か)ならんや。
是(こ)れを以(もっ)て其の世(よ)を論(ろん)ず。是(こ)れ尚友(しょうゆう)なり。
注釈
- 善士(ぜんし):徳のある優れた人物。知識・行い共に模範とされる人。
- 尚論(しょうろん):古人の言行・思想を尊び、研究し、批評すること。
- 尚友(しょうゆう):古人を友とする。書を読み、時代を超えて交わり、学ぶ姿勢。
- 頌(しょう):声に出して詩を讃えること。
- 論其世(ろんきせい):その人物が生きた時代背景を考察すること。
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「古人と友になる」という尚友の精神をやさしく表現したスラッグ。
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この章では、孟子が持つ学びへの真摯な姿勢と、自己を高めるための人間関係のあり方が語られています。
古人を知的・精神的な友とする「尚友」の考えは、読書と思索を通じて時空を超える交友を築くという、現代においても非常に深い価値を持つものです。
1. 原文
孟子謂萬章曰、
一鄕之善士、斯友一鄕之善士、
一國之善士、斯友一國之善士、
天下之善士、斯友天下之善士。
以友天下之善士、爲未足、
又尙論古之人、頌其詩、讀其書、
不知其人、可乎、是以論其世也。
是尙友也。
2. 書き下し文
孟子、万章に謂いて曰く、
一郷の善士は、斯に一郷の善士を友とす。
一国の善士は、斯に一国の善士を友とす。
天下の善士は、斯に天下の善士を友とす。
天下の善士を友とするを以て、未だ足らずと為し、
また古の人を尚(たっと)びて論ず。
その詩を頌(しょう)し、その書を読み、
その人を知らずして、可ならんや。
ここを以てその世を論ず。
これを尚友と謂うなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 孟子は万章に言った。
- 「一つの村における善い人物(善士)は、その村の善士と交わり、
一国の善士は、その国の善士と交わり、
天下に名の知れた善士は、天下の善士と交わる。」 - 「しかし、天下の善士を友とするだけでもまだ不十分だとし、
古の偉人たちを尊び議論し、
その人たちの詩を口ずさみ、書物を読み、
その人物像を理解せずに読むだけでよいのか?」 - 「だからこそ、その時代背景まで含めて議論するのである。
これこそが“尚友”(高き人を敬い、友とすること)である。」
4. 用語解説
- 善士(ぜんし):道徳的に優れた人物、有徳者。
- 尚友(しょうゆう):人格的に優れた人物を敬い、心の中で友とすること。とくに古人に対してもこの態度をとること。
- 頌(しょう):詩を称えて読むこと。
- 其の世を論ず:その人物が生きた時代背景・風土・思想などを論じる。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子は、「人は自分の徳に応じて、同等の徳を持つ人と友になる」と語る。村であれば村の善士と、国であれば国の善士と、天下であれば天下の善士と付き合う。
それでも満足せず、古代の偉人を敬い、彼らの詩を詠み、書を読み、その思想を深く理解しようとする。人物そのものだけでなく、彼らが生きた時代の背景をも含めて考察することが、まさに「尚友」である。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「自己の人格を高めるために、常により高き徳を持つ者を求め続ける姿勢」 を教えています。
- 交友とは、単なる付き合いではなく、徳において自他を高め合う関係であるべきだという価値観。
- また、時代や距離を越えて偉人を「友」とすることが可能であるという、学問と精神の豊かさを肯定する教え。
- 知識だけでなく、人物像や時代背景を含めて理解することの重要性も強調されており、現代においても「教養」の真の意味を問い直す内容となっています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
- 「自らのレベルを高めるには、付き合う人の質を上げよ」
→ 人は環境や人間関係によって成長の度合いが決まる。尊敬できる人物との関係は最大の学びの源泉となる。 - 「過去の偉人からも学べ。書物は生きた師である」
→ 成功者の思考・判断・態度を学ぶには、著作・伝記・記録を深く読むこと。時代背景も含めて理解することで、自身の判断軸が磨かれる。 - 「“徳”で繋がるネットワークを持て」
→ 利害関係や地位ではなく、理念や信念によって繋がる関係性こそが、持続的なビジネスを生む。
8. ビジネス用の心得タイトル
「人は徳の高さに応じて友を得る──心の師を求めよ」
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