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大人を目指す

孟子は、人物には次の四つの段階があると教えた。まずは、単に君に仕えるだけの人物がいる。この人は君に仕えることに満足し、これ以上の目標を持たない。次に、国家を安んずることを目的にする臣下がいる。この人は、国家の安定を自分の使命とし、それに満足する。さらに、天民という者がいる。この人は、道を天下に行うことができると信じ、それを実行に移すことに満足する。そして、最後に大人という者がいる。大人は、まず自分の身を正しくすることに努め、その結果として周囲にも良い影響を与え、自然と正しさが広がる人物である。大人は、徳を身につけ、他人を正すのではなく、自らを正すことに専念し、その影響力を広げていくのである。

「孟子曰(もうし)く、君に事うる人なる者有り。是の君に事うれば、則ち容悦を為す者なり。社稷を安んずる臣なる者有り。社稷を安んずるを以て、悦を為す者なり。天民なる者有り。達して天下に行うべくして、而る後に之を行う者なり。大人なる者有り。己を正しくして、而して物正しき者なり」

「君に仕える者は、ただ君に仕えることに満足し、国家を安んずる臣は、その安定を満たすことで喜び、天民は道を天下に行うことができる地位に達してからそれを実行に移す。そして、大人はまず自らを正し、その結果として周囲を正していく」

大人を目指すことは、自己を高め、徳を身につけることで、周囲に自然と良い影響を与え、最終的には社会全体に良い変化をもたらすことを意味する。

※注:

「社稷」…国家を指す。元々は土地の神と穀物の神を指すが、後に国家全体を意味するようになった。
「達し」…地位に達すること。または、「道」を行うと読む説もある。
「大人」…徳の最高の人物。自己を正し、他者に影響を与える人物。

目次

『孟子』 離婁章句(下)より


1. 原文

孟子曰、事君人者、事是君、則為容悅者也。安社稷臣者、以安社稷、為悅者也。天民者、可行於天下而後行之者也。大人者、正己而物正者也。


2. 書き下し文

孟子曰(いわ)く、君(きみ)に事(つか)うる人なる者有(あ)り。是(これ)の君に事えば、則(すなわ)ち容悦(ようえつ)を為(な)す者なり。社稷(しゃしょく)を安(やす)んずる臣なる者有り。社稷を安んずるを以(もっ)て悦を為す者なり。天民(てんみん)なる者有り。天下に行(おこな)うべくして、而(しか)る後(のち)に之(これ)を行う者なり。大人(たいじん)なる者有り。己(おのれ)を正(ただ)しくして、而して物(もの)正しき者なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 「事君人者、事是君、則為容悅者也」
     → 君主に仕える人の中には、その主君に取り入ることだけを目的として、顔色をうかがい、機嫌を取る者がいる。
  • 「安社稷臣者、以安社稷、為悅者也」
     → 国を安定させることを志す忠臣は、国家の安定を喜びとする。
  • 「天民者、可行於天下而後行之者也」
     → 天下万民の利益を考える“天民”は、それが世の中で通用すると確信してから行動に移す。
  • 「大人者、正己而物正者也」
     → 真に偉大な人物(大人)とは、自分自身を正しくして、その影響で周囲をも正しく導く者である。

4. 用語解説

  • 事君(じくん):主君に仕えること。君主に奉公する。
  • 容悦(ようえつ):顔色をうかがい、気に入られるように振る舞うこと。へつらい。
  • 社稷(しゃしょく):国家・国政。社(祖霊)と稷(五穀の神)に由来する国家の象徴。
  • 天民(てんみん):天下万民を思う高徳の士。天下に奉仕する者。
  • 可行於天下(かこううてんか):世の中に通用し、広く受け入れられること。
  • 大人(たいじん):人格的に優れた偉人。君子の上位概念。
  • 正己(せいき):自分の行いや心を正すこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう語った:
「主君に仕える人の中には、ただその君主に取り入ることだけを目的とし、顔色をうかがって悦ばせるような者がいる。
しかし真の忠臣は、国家を安んずることを喜びとする。
また“天下の民”に仕えるような人物は、その行いが本当に天下に通用するかを見極めてから行動に移す。
そして真の“大人”とは、まず自らを正しく整え、それによって周囲の人々や物事までをも正しく導いていく人物である。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、仕える姿勢とリーダーシップの本質を対比的に描き出しています。

  • 形式的な忠誠 vs. 実質的な志
     君主に“へつらう者”は目先の関係に依存するが、社稷を安んじようとする者は公共を見据えている。
  • 普遍性を確認してから行動する慎重さ
     “天民”は一時の思いつきで動かず、「これは天下に通用するか?」という倫理と普遍性の視点から判断する。
  • 自らを正すことで影響を及ぼす“大人”の徳
     周囲を変えたいなら、まず自分を正すこと。それが徳の循環を生む出発点。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

「上に気に入られる」ではなく、「組織を支える」が忠誠の本質

  • 上司の機嫌を取ることを目的に動く“容悦型”は短期的には評価されるが、信頼を失いやすい。
  • 一方、組織全体の安定・持続的発展を見据えて行動する人材は、信頼され、長期的に重宝される。

「理念・ビジョンを社会に通じる形にできるか?」を問う“天民”の目線

  • 企業理念や戦略が本当に顧客や市場に通用するかを見極め、確信を得てから着手するのが成熟したマネジメント。

「リーダーはまず自分を律する者であれ」

  • 部下に規律や変革を求める前に、自らが誠実で正しい行動を貫いているかが問われる。
  • 自己の在り方が“リーダーの背中”として、組織文化を形づくる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「仕えるのは誰のためか──自己を正し、社会に通じる志を持て」


この章句は、忠誠の質・志の範囲・リーダーの条件について、孟子らしい倫理的明快さをもって説いています。
真のリーダーや支える者は、「その場を喜ばせる者」ではなく、「公共や普遍性に通じる判断と人格を持つ者」である──この原理は、現代のあらゆる組織やリーダーにとっての羅針盤となるでしょう。

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