■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、徳行を達成する。
――『ダンマパダ』第13節(一三)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:人生の方向性・価値判断・行動の選択はすべて自己に由来するという原理。
- 他人がどうして主であろうか?:いかに権力ある者でも、内面や行動の真の支配者にはなり得ないという問いかけ。
- 賢者(パンディタ):自省し、内面の秩序を築き、それを実生活に活かす人。
- 身をよくととのえて:行動・思考・態度を律する実践的な自己管理。
- 徳行(プンニャ):誠実・慈悲・正直・無私といった倫理的な善行。仏教においては解脱や社会的調和の基礎。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この人生において、自分を導くのは他でもない自分自身である。
他人が自分の人生の主人であるなどということはあり得ない。
だからこそ、賢者は自らの心身を整え、
良き行い(徳)を積み重ねて、人格と人生を完成させていく。」
この章句は、自己統御による道徳の完成という仏教実践の核心を示しています。
■ 解釈と現代的意義
この節が強調するのは、**「徳とは外から与えられるものではなく、内側から築かれるものだ」**という姿勢です。
現代においては、評価や称賛といった外的承認を「良き行い」の基準としがちです。しかし仏教は、**「徳は他人のために演じるものではなく、自己を律して自然に現れるもの」**だと説きます。
つまり、自己の主であること=徳の根本であるという思想です。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
組織文化づくり | 規則や監視ではなく、社員一人ひとりが自己管理し、倫理的に行動することで、健全な職場が築かれる。 |
倫理的リーダーシップ | 自ら律し、公私の区別なく誠実な姿勢を貫くリーダーは、組織全体の信頼と尊敬を集める。 |
人材評価・成長 | スキルだけでなく、日常の行動の整い方・利他性・一貫性など、徳の面を重視する。 |
社会的信頼 | 顧客や取引先から信頼される企業・個人は、内面の整いが日々の行動に表れている。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「徳は、自己を治める者にのみ宿る」
他人の目を気にする前に、
まず自らを整えよ。
自己の主である者は、
誰に強制されずとも、自然と善き道を歩むことができる。
この章句は、「倫理」「信頼」「人格形成」といったテーマにおいて、真の自律から生まれる徳の力を示してくれます。
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