■引用原文(書き下し文付き)
原文:
古之欲明明徳於天下者、先治其国。欲治其国者、先斉其家。
欲斉其家者、先脩其身。欲脩其身者、先正其心。
欲正其心者、先誠其意。欲誠其意者、先致其知。
致知在格物。物格而后知至。知至而后意誠。
意誠而后心正。心正而后身脩。身脩而后家斉。
家斉而后国治。国治而后天下平。
書き下し文:
古えの明徳を天下に明らかにせんと欲する者は、先ずその国を治む。
その国を治めんと欲する者は、先ずその家を斉う。
その家を斉えんと欲する者は、先ずその身を脩む。
その身を脩めんと欲する者は、先ずその心を正す。
その心を正さんと欲する者は、先ずその意を誠にす。
その意を誠にせんと欲する者は、先ずその知を致む。
知を致むるは物に格るに在り。
物格りて后に知至まる。知至まりて后に意誠なり。
意誠にして后に心正し。心正しくして后に身脩まる。
身脩まりて后に家斉う。家斉いて后に国治まる。国治まりて后に天下平らかなり。
(『礼記』大学 第一章 第二節)
■逐語訳(一文ずつ)
- 昔の聖人たちは、天下に徳を明らかにしようとする前に、まず自国をよく治めようとした。
- 自国を治めるには、まず家庭を整えることから始めた。
- 家庭を整えるには、まず自らの身を修めた。
- 身を修めるには、まず心を正す。
- 心を正すには、意志を誠実にする。
- 意志を誠実にするには、知を致す(知識・判断力を極める)ことが必要。
- その「知」は、事物にあたって(格物)真実を見極めることで到達できる。
- 物事を正しく把握して初めて、真の知に至る。
- 真の知に至ってこそ、意は誠実になり、
- 意が誠実になってこそ、心は正しくなり、
- 心が正しくなってこそ、身が修まり、
- 身が修まってこそ、家が整い、
- 家が整ってこそ、国が治まり、
- 国が治まってこそ、天下が平らかになる。
■用語解説
- 明徳:天から授かった純粋な徳性。内面にある本来の道徳的力。
- 修身:自らを磨き、徳を養うこと。内省と実践。
- 正心・誠意:心を正し、意志を誠実に保つこと。行動の根源を浄化する。
- 致知・格物:知識・道徳的判断を完成させるには、実際の事物に対し観察・分析し、道理を極めることが必要。
- 家斉・国治・天下平:内面から外へ広がる徳の波紋。自己→家庭→国家→世界への循環的影響。
■全体の現代語訳(まとめ)
古代の賢者たちは、自分の徳を世界に広めようとする前に、まず自分の国を治めようとした。そして国を治めるためには家庭を整えることが不可欠であり、そのためには自分自身を律し、修めることから始めた。
自分を修めるには、心を正し、心を正すには意志を誠実にし、その意志は正しい知に裏付けられていなければならない。正しい知を得るには、物事の本質を丁寧に観察・把握することが必要である。
このように内から外へ、自己の内面を基礎とした秩序の拡張が、世界を平和にする根本の道なのである。
■解釈と現代的意義
この節は、倫理の構造と変革の道筋を「内から外へ」の階層で示しています。つまり、自分を変えずして組織は変わらず、組織を変えずして社会も変わらないという厳粛な事実を突きつけています。
現代においても、変化を外に求めがちですが、まず自分の意識・行動・判断を正し、そこから家庭・チーム・社会へと波及させるという理念は、極めて普遍的かつ実践的です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
セルフマネジメント | 問題を外に求めるのではなく、まず「心を正し、意を誠に」して、自身の判断軸と行動の整合性を高める。 |
リーダーシップ | 部下や組織に影響を与えるには、まず「修身」を通じて模範を示すこと。行動の一貫性と誠実さが信頼の基盤となる。 |
人材育成 | 育成は知識だけでなく、「格物→致知→誠意→正心」の段階を通して、判断力と人間性を養うことが必要。 |
組織改善 | トラブルの本質は組織や外部環境ではなく、個人の意識と行動の乱れから始まることを踏まえ、内省的アプローチを重視する。 |
■心得まとめ(ビジネス指針)
「自分を正して、世界を整える」
偉業をなす者は、まず自分自身の意・心・身を整える。その整えが家族や組織に伝播し、やがて社会と世界を動かす。真の変革は、自己修養から始まる。
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