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教えは、伝わらぬことを覚悟して伝えるべし


一、原文の引用と現代語訳(逐語)

原文抄(聞書第六)

相良市右衛門書置の奥書に、「右の通り申置き候ても、子々孫々に至り、相守り申すまじくと存じ候。その謂はれは、我等五歳の時より酒を好み、大酒仕り候に付、たびたび意見に会ひ申し候へども、終に承引仕らず候。然れども意見に会ひ申し候脇は少し控え申し候。それ故、書置斯くの如くに候」と。

現代語訳(逐語)
「このように書き遺しても、子や孫たちがそれを守ることはまずないだろう。
というのも、自分自身が五歳のころから酒を好み、大酒を飲んでいたため、幾度も諫められたが、ついに心からは受け入れなかった。
とはいえ、意見された直後には、多少は控えたものである。
ゆえに、こうして教訓として書き残すのである。」


二、用語解説

用語解説
書置(かきおき)書き残すこと。遺言状や教訓文書を指す。
承引(しょういん)承諾し、受け入れること。ここでは「諫めに従うこと」。
「そのとき」「その場合」などの意味合い。「意見されたときには少しは控えた」という文脈。

三、全体現代語訳(まとめ)

相良市右衛門は、自分の遺言に次のように書いた。
「いろいろと教訓を書き遺したが、どうせ子や孫は守らないだろう。なぜなら、自分自身が五歳のころから酒を好んで飲み、たびたび諫められても聞く耳を持たなかったからだ。
それでも諫められたときは、少しは控えたものである。だから、わずかでも効果があることを願って、教訓として書き残しておくのだ。」


四、解釈と現代的意義

この遺言には、三つの重要な教訓が込められています:

1. 教えは簡単に伝わらない

人は、正論や教訓を聞いても、自らの欲や習慣には逆らえないことが多い。
相良自身も「聞く耳を持たなかった」と正直に認めています。

2. わずかな影響でも意味がある

完璧に従わなくとも、「意見された時に少し控えた」。
これは、行動が完全に変わらなくても、言葉は多少の抑制になるという人間的な観察です。

3. “伝わらぬこと”を前提にして伝える勇気

「どうせ守らないだろうが、それでも書き残す」という姿勢は、教育や指導の本質です。
成果や効果を求めすぎると、伝えることすら諦めてしまう。
だが、伝え続ける者こそ、文化や道徳の継承者なのです。


五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・応用
社内教育・OJT「言ってもどうせやらない」と諦めず、小さな影響を信じて伝え続けることが大切。1回で変わらなくても、記憶に残る一言が後の行動を変えることもある。
リーダーシップ指導する側が「自分もできていなかった」と認めた上で、誠実に伝える姿勢は、部下の共感と信頼を生む。完璧であるより、正直である方が人を動かす。
マネジメント教訓やルールを「浸透しない」と嘆くより、「浸透に時間がかかるのが当たり前」と捉える。定期的に言い続ける構造を設ける方が効果的。
ナレッジの継承形式知よりも「なぜこの教訓があるのか」という背景まで含めて、残すべき。**“伝わらないかもしれないが、伝えることに意味がある”**という精神が文化をつくる。

六、まとめ:この章が伝えるメッセージ

  • 教えは完全には伝わらぬものと知れ
  • されど、その一言が誰かの行動を一時でも変えるなら、十分に意味がある
  • 人を責めず、自らを省みて伝えよ。それが“遺す者”の覚悟である

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