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他人には公正な目を、自分には厳しい目を

誰かの過失を責めるとき、ただその失敗だけを指摘するのではなく、その人の中にある良い点、評価すべき点も併せて見て伝えることが肝要である。そうすれば、責められた相手も納得し、不平を抱くことなく、素直に受け入れやすくなる。

一方、自分自身を省みるときには逆である。たとえ「自分には過失がない」と思えるときでも、なおもその中に誤りや改めるべき点がないかを探る姿勢が大切だ。そうすることで、自らの徳は磨かれ、人間的に大きく成長していく。

これは儒家の伝統的な考え方であり、孟子も次のように説いている――

「人を愛して親しまれずんば、其の仁に反れ。人を治めて治まらずんば、其の智に反れ。行いて得ざる者あらば、皆これを己に反求す」
つまり、物事がうまくいかないときは、まず原因を他人ではなく自分の中に求めよという教えである。

この「自省の精神」は、他人にへりくだるためではなく、自分こそが物事の主であるという自覚に基づいた、強さと誇りの現れである。


原文と読み下し

人(ひと)を責(せ)むる者は、無過(むか)を有過(ゆうか)の中に原(ゆる)ぬれば、則(すなわ)ち情(じょう)平(たい)らかなり。
己(おのれ)を責むる者は、有過(ゆうか)を無過(むか)の内に求(もと)むれば、則ち徳(とく)進(すす)む。


注釈

  • 原ぬる:責め立てるのではなく、情をもって配慮しながら指摘する。
  • 情平らかなり:感情が穏やかで、納得して受け入れることができる状態。
  • 有過を無過の内に求む:自分に明確な非が見当たらない場合でも、さらに深く反省し、自己修正を行う姿勢。
  • 徳進む:徳が育まれ、人としての深みが増していく。

パーマリンク(英語スラッグ)案

  • be-gentle-on-others-strict-on-yourself(他人には寛容に、自分には厳しく)
  • fairness-in-blame-growth-in-reflection(責めには公正を、反省には成長を)
  • true-reflection-builds-character(真の反省が人をつくる)

この心得は、上司・指導者・親といった立場の人はもちろん、すべての人間関係において応用できる実践的な道理です。
他人には誠実な敬意をもって指摘し、自分には妥協なく厳しく向き合う――それが、周囲の信頼を得ながら、自らも高まっていくための最良の道です。

目次

1. 原文

責人者、原無過於有過之中、則情平。
責己者、求有過於無過之內、則德進。


2. 書き下し文

人を責むる者は、有過(うか)の中に無過(むか)を原(たず)ぬれば、則ち情(じょう)平(たい)らかなり。
己を責むる者は、無過の内に有過を求むれば、則ち徳(とく)進(すす)む。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

一文目:

責人者、原無過於有過之中、則情平
→ 他人を責めるとき、その過ちの中にも「仕方なかったこと」「悪意のない部分」があったと理解しようとすれば、自分の気持ちも穏やかに保てる。

二文目:

責己者、求有過於無過之內、則德進
→ 自分を責めるとき、たとえ非がないように思えても、どこかに自分の落ち度がなかったかを探すようにすれば、自分の徳が深まっていく。


4. 用語解説

  • 責人(せきじん):他人の過失を責めること。
  • 原(たず)ぬ/原する:根本をたずねる、寛容に理解すること。
  • 無過(むか)/有過(うか):過ちのない点/過ちがある点。
  • 情平(じょうたいら):感情が穏やかで、公平なこと。
  • 責己(せきこ):自分自身を省みること。
  • 德進(とくすすむ):人格・徳行が向上すること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

他人を責めるときには、その人の過ちの中にも責められない理由ややむを得ない事情があったのではないかと理解しようとすれば、自分の心も穏やかでいられる。

一方で、自分自身を省みるときには、過ちがないように見えるときであっても、何か自分にも非がなかったかと探すようにすれば、人格や徳が大きく成長していく。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「人には寛く、己には厳しく」**という、古来からの修養・リーダーシップの核心を端的に表しています。

  • 他人には、「一理ある」「事情があったかもしれない」と寛容に見れば、対人関係が穏やかになる。
  • 自分には、「本当に落ち度はなかったか」と謙虚に見れば、内省と成長が進む。

つまり、判断の基準を“反転”させることが、人間関係の調和と自己修養の道であるという、極めて実践的な心の法則です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「他人のミスを“責める”より、“理解する”ことで職場が安定する」

チームメンバーのミスに対して、頭ごなしに叱責するのではなく、「なぜそうなったのか」「仕方ない背景はなかったか」と見れば、信頼と協力が深まる。

●「“怒り”を抑える視点の切り替えが“情平”を育てる」

他人を責めたい衝動が湧いたとき、「自分も同じ立場だったら?」と一歩引いて考えれば、感情に飲まれず、公平な判断ができる。

●「自己反省を“丁寧に掘る”ことで成長する」

トラブルや失敗の後、「自分には非がない」と思っていても、「伝え方がまずかったか?」「配慮が足りなかったか?」と深掘りすれば、人格が磨かれる。

●「リーダーは“他責”より“内省”で信頼される」

部下のせいにするのではなく、常に「自分のリードに問題がなかったか」と省みるリーダーこそ、周囲から信頼と尊敬を集める。


8. ビジネス用の心得タイトル

「人を責めず己を問え──“寛容と内省”が信頼と成長を生む」


この章句は、特にマネジメント・指導・教育の現場で力を発揮する知恵です。職場の心理的安全性とリーダーの人格形成を両立する“人の上に立つ者”に必須の心得といえます。

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