B社を支援した際の事例をご紹介します。バランスシートを精査した結果、同社の短期借入金は非常に少なく、預貸率や含み資産の状況からさらなる借入余地が十分にあることが分かりました。
しかし、受取手形の8割以上が支払手形として抱え込まれ、割引手形も多数存在している状況でした。
「支払手形」と「借入金」のリスクの違い
B社の経営者に「借入を増やして支払手形を減らすべき」と提案したところ、こう返答されました。「父から『借金はするな』と言われて育ったので、借金を避けて支払手形でやりくりしている」。
この認識に対し、私は次のように説明しました。支払手形は本質的には借金の一形態であり、借入金と比較してリスクが高い側面を持っています。
支払手形は取引先からの借金であり、期日に必ず返済しなければならない、いわば“待ったなし”の性質を持つものです。
一方、借入金は金融機関との交渉次第で返済期日の延長が可能であり、柔軟性があります。
さらに、支払手形が不渡りとなれば、会社は即座に信用を失い、破綻するリスクが高まります。
これに対し、借入金であれば延命措置や条件変更が可能な場合が多いため、支払手形のリスクとは比較になりません。
借入を活用した支払手形削減の基本戦略
支払手形のリスクを軽減するための基本戦略はシンプルです。それは、借入を活用して支払手形を減らすこと。このアプローチにより、次のような効果が期待できます。
- 不渡リスクの回避 支払手形を発行しないことで、不渡りの危険性をゼロにできます。
- 資金繰りの安定化 借入金による資金調達は、手形割引の必要がなくなるため、金利負担を軽減します。
- 信用力の向上 支払手形を削減することで、取引先や金融機関からの評価が向上し、将来的な取引条件や借入条件の改善につながります。
支払手形依存の危険性とその克服
ある経理担当者から、「受取手形が支払手形を上回っていれば問題ないのでは?」との質問を受けたことがあります。この考え方には一理ありますが、大きなリスクが潜んでいます。
不況などで売上が減少した場合、最初に減るのは受取手形であり、支払手形はその後に減少します。その結果、手形割引の原資が急減し、資金繰りが急激に悪化するのです。
これを防ぐには、借入を活用して支払手形を削減し、資金繰りを安定化させる必要があります。たとえ金利負担が若干増加したとしても、それを企業の安定を守るための「保険料」と捉えるべきです。
借入活用時の注意点
借入を活用する際には、次の点に注意が必要です。
- 利率の比較 金融機関の借入金利と手形割引料を比較し、どちらが有利かを見極めます。
- 返済計画の策定 借入金は長期的な返済計画を立て、経営に無理のない範囲で活用することが重要です。
- 信用金庫などの活用 地域の信用金庫は、手形割引よりも低金利で借入を提供する場合があります。このような選択肢を検討することで、資金調達コストを抑えられます。
企業存続のための経営判断
最終的に、支払手形を削減するかどうかは経営者の判断に委ねられます。しかし、会社を守るという大きな視点で見れば、支払手形の削減は最優先の課題と言えます。
不渡手形という危機を避けるために、借入を最大限活用し、資金繰りの安定化と経営基盤の強化を図ることが重要です。
借入を負担ではなく、会社を守るための戦略的ツールと捉え、積極的に活用する姿勢が、企業の未来を切り開く鍵となります。
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