孔子は、人格のバランスについて非常に的確な言葉でこう語った。
「人の実質が外見よりも勝ちすぎると、洗練を欠いた田舎者のようになってしまう。
逆に、見かけの飾りが中身に勝ちすぎると、ただの文書係のように軽薄に見えてしまう。
だが、外見と中身の両方が美しく整っているとき、そこにはじめて“君子”があらわれるのだ」
これは、中身だけでも、見た目だけでも不十分であるという教えであり、どちらかに偏ることの危うさを説いている。
「質」とは人の誠実さ・実直さ・徳のこと、「文」とは礼儀・態度・言葉遣いや外見の整えなど、見える部分の美しさを指す。
現代においても、学びや能力に秀でながらも人との接し方が粗野だったり、逆に洗練された外見の裏に空虚な内面しかなかったりする人を私たちは見かける。
本当の“君子”とは、内に深い教養と誠実さを持ち、外に礼儀と美しさをまとった人物である。
ふりがな付き原文
子(し)曰(いわ)く、
質(しつ)、文(ぶん)に勝(まさ)れば則(すなわ)ち野(や)なり。
文(ぶん)、質(しつ)に勝(まさ)れば則ち史(し)なり。
文質(ぶんしつ)彬彬(ひんぴん)として、然(しか)る後(のち)に君子(くんし)なり。
注釈
- 質(しつ):人の中身、実質、徳、誠実さなど。
- 文(ぶん):外見、礼儀、言葉づかい、態度など表面的な部分。
- 野(や):粗野な人、洗練されていない田舎者のイメージ。
- 史(し):文書係、表面だけ整った中身のない役人。
- 彬彬(ひんぴん):中身と外見の調和がとれて整っている様子。
1. 原文
子曰、誰能出不由戶、何莫由斯道也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、誰(た)れか能(よ)く出(い)づるに戸(こ)に由(よ)らざらん。
何(なん)ぞ斯(こ)の道(みち)に由(よ)ること莫(な)きや。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子曰く、誰か能く出づるに戸に由らざらん。
→ 孔子は言った。「家を出るときに、誰が戸口(正しい出入り口)以外から出ようとするだろうか。」 - 何ぞ斯の道に由ること莫きや。
→ 「ではなぜ、人々はこの“正しい道(=道徳・仁の道)”を通ろうとしないのか?」
4. 用語解説
- 出づるに戸に由らざらん(いずるに とに よらざらん):
「家から出るときに、わざわざ窓や裏口ではなく、普通は正面の戸から出る」という意味。常識を象徴する比喩。 - 斯の道(このみち):
孔子の教える「仁」や「礼」などの正しい生き方・人の道のこと。 - 由る(よる):
通る、従う、基づくの意。 - 莫(な)きや:
〜する者がいないのはなぜか、という反語的表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った。
「誰が家から出るときに、正面の戸口を通らずに出ようとするだろうか?
それなのに、なぜ多くの人がこの“正しい道”を通ろうとしないのか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「人間としての正しい道=道徳の道が、なぜかえって避けられるのか」という孔子の嘆きを表しています。
- 家の戸口から出るのが自然で常識であるように、“道(仁・礼)”に従うのが本来の生き方であるというたとえ。
- にもかかわらず、人は欲望・効率・私利に流され、正道を避けて“近道”や“抜け道”を選びがち。
- 孔子はそのような風潮に対して、「なぜ当たり前のことを避けるのか?」と強く問いかけているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用
● 「“近道”ではなく“本道”を通る姿勢が信頼を生む」
- 不正な手段・ごまかし・忖度といった**“裏口から出るような行動”**は一時的な成果しか生まない。
- 多少遠回りに見えても、誠実・正道・原理原則に基づく判断こそが信頼と持続性の鍵。
● 「“当然すべきこと”を回避していないか、自問せよ」
- 挨拶・報連相・フィードバックなど、当たり前に見える行為が疎かになると組織文化は崩れる。
- 孔子の問いは、現代ビジネスにおいても**「原点に立ち返れ」という倫理的なリマインダー**である。
● 「シンプルな行動原則を“バカにしない”ことが一流の証」
- “正門から出る”という素朴なたとえに、ルール・誠実・丁寧さを尊ぶ哲学が込められている。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「裏口から出るな──正道こそ最強の戦略」
この章句は、道徳・誠実・原則の実践こそが本当の「生きる力」であるという、孔子のまっすぐな信念を語っています。
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