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考えすぎても、考えなさすぎても、バランスを欠く

心が細やかな人は、自分自身のことを深く考えるだけでなく、
他人のことにも過度に気をまわしてしまい、
何事も“重く濃く”なりがちである。
一方で、心が淡白な人は、自分にも他人にも無関心になりやすく、
すべての物事が“あっさりしすぎて”しまう傾向にある。

どちらにも長所と短所があるが、
君子、すなわち品格ある人が目指すべきはその中庸――
「濃すぎず」「枯れすぎず」、ちょうどよいところに心を置くことである。
過剰な繊細さは自分も人も疲れさせ、
過度な淡白さは思慮のない鈍感さへと転じてしまう。
日々の暮らしや人付き合いにおいて、
“ちょうどよい”感覚を育むことが、人生を潤し、人を安らがせるのだ。


「念頭(ねんとう)の濃(こま)やかなる者(もの)は、自(みずか)ら待(ま)つこと厚(あつ)く、
人(ひと)を待つことも亦(また)厚く、処処(しょしょ)皆(みな)濃(こま)やかなり。
念頭の淡(あわ)き者は、自ら待つこと薄(うす)く、人を待つことも亦た薄く、
事事(じじ)皆淡し。
故(ゆえ)に君子(くんし)の居常(きょじょう)の嗜好(しこう)は、
太(はなは)だ濃艶(のうえん)なるべからず、亦(また)宜(よ)しく太だ枯寂(こじゃく)なるべからず。」


注釈:

  • 念頭(ねんとう)…考え方、心の向け方。
  • 濃やか(こまやか)…繊細で手厚い。丁寧だが、行き過ぎると重苦しい。
  • 淡い(あわい)…あっさりしている。軽やかだが、浅薄にもなりうる。
  • 居常(きょじょう)…日常生活における態度や好み。
  • 濃艶(のうえん)…華やかで情熱的。過度になるとくどく感じられる。
  • 枯寂(こじゃく)…味気なく、殺風景。淡白すぎて潤いがない。
目次

1. 原文

念頭濃者、自待厚、待人亦厚、處處皆濃。
念頭淡者、自待薄、待人亦薄、事事皆淡。
故君子、居常嗜好、不可太濃艷、亦不宜太枯寂。


2. 書き下し文

念頭の濃やかなる者は、自らを待つこと厚く、人を待つことも亦た厚く、処処皆濃やかなり。
念頭の淡き者は、自らを待つこと薄く、人を待つことも亦た薄く、事事皆淡し。
故に君子の居常の嗜好は、太だ濃艶なるべからず、亦た太だ枯寂なるべからず。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「念頭の濃やかなる者は、自らを待つこと厚く、人を待つことも亦た厚く、処処皆濃やかなり」
     → 心の中に情が深く厚い者は、自分にも他人にも手厚く接し、どの場面においても濃やかな情が現れる。
  • 「念頭の淡き者は、自らを待つこと薄く、人を待つことも亦た薄く、事事皆淡し」
     → 心が淡泊な者は、自分に対しても他人に対しても淡く、どんな事柄も淡々とした対応になりがちである。
  • 「故に君子の居常の嗜好は、太だ濃艶なるべからず、亦た太だ枯寂なるべからず」
     → だからこそ、君子の日常生活における嗜好は、過度に濃密・華やかであってはならず、かといって、あまりに枯れて寂しいものであってもならない。

4. 用語解説

  • 念頭(ねんとう):心にある思い、日頃の精神傾向。思考の出発点。
  • 濃(こまやか):情が深く、温かく、人間関係において手厚い。
  • 淡(あわし):淡白、無関心、温度が低いような人間関係。
  • 自待(じたい):自分に対する扱い・接し方。自律や自己評価のあり方。
  • 居常(きょじょう):ふだんの生活、日常。
  • 嗜好(しこう):好み、傾向。ここでは生活態度や趣味趣向を含む。
  • 濃艶(のうえん):過度に華やかで濃密なこと。情に流されやすい傾向。
  • 枯寂(こじゃく):感情が枯れ、寂しく味気ない状態。冷たすぎる精神性。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

情が深い人は、自分にも他人にも温かく、どの場面においても関わりが濃やかになる。
反対に、心が淡泊な人は、自分にも他人にも無関心になり、すべてのことに冷めた態度になりがちである。
だからこそ、君子(徳のある人)の日常における好みや生活姿勢は、派手すぎてもいけないし、かといって冷たく枯れすぎていてもいけない。
中庸の精神が大切である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「思考の傾向が行動を形づくり、日常のあらゆる場面に現れる」**という心理的・行動的原理を説いています。

情が深ければ行動も丁寧で手厚くなり、淡泊であれば他人にも関心を持たなくなる。
つまり、心のあり方がそのまま“人間関係の濃度”を決定するのです。

さらに、君子にふさわしい日常とは、「華やかすぎず、冷たすぎず」、ちょうどよい温度と質感をもった在り方であると、“中庸”の徳を推奨しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「自己認識の濃度」が職場の人間関係を決める

普段から感情や思考を丁寧に扱っている人は、他者にも深い敬意と関心を持つ。
逆に、自己の内面を軽視する人は、他人に対しても雑な接し方になりやすい。
内面の姿勢が外への接し方に反映される。

● 過剰な熱意 or 無関心な冷静──どちらもバランスを欠く

一部のリーダーは熱意過剰で情熱を押しつける傾向があり、また一方でクールすぎて部下が“冷たさ”を感じることもある。
理想は「誠実で穏やか、熱すぎず、冷たすぎない」中庸なマネジメント。

● 組織文化も「濃すぎず・淡すぎず」が長続きの秘訣

歓楽的な社風は疲労や燃え尽きを、禁欲的すぎる社風は士気の低下を招く。
文化として“温かく、節度ある距離感”を持つことが、持続可能な組織をつくる鍵。


8. ビジネス用の心得タイトル

「濃すぎず、枯れすぎず──“ちょうどよさ”が信頼を育てる」


この章句は、自分と他者との関係性における“温度感の調律”こそが、日常と人間関係の質を決定するという深い知見を示しています。


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