心が細やかな人は、自分自身のことを深く考えるだけでなく、
他人のことにも過度に気をまわしてしまい、
何事も“重く濃く”なりがちである。
一方で、心が淡白な人は、自分にも他人にも無関心になりやすく、
すべての物事が“あっさりしすぎて”しまう傾向にある。
どちらにも長所と短所があるが、
君子、すなわち品格ある人が目指すべきはその中庸――
「濃すぎず」「枯れすぎず」、ちょうどよいところに心を置くことである。
過剰な繊細さは自分も人も疲れさせ、
過度な淡白さは思慮のない鈍感さへと転じてしまう。
日々の暮らしや人付き合いにおいて、
“ちょうどよい”感覚を育むことが、人生を潤し、人を安らがせるのだ。
「念頭(ねんとう)の濃(こま)やかなる者(もの)は、自(みずか)ら待(ま)つこと厚(あつ)く、
人(ひと)を待つことも亦(また)厚く、処処(しょしょ)皆(みな)濃(こま)やかなり。
念頭の淡(あわ)き者は、自ら待つこと薄(うす)く、人を待つことも亦た薄く、
事事(じじ)皆淡し。
故(ゆえ)に君子(くんし)の居常(きょじょう)の嗜好(しこう)は、
太(はなは)だ濃艶(のうえん)なるべからず、亦(また)宜(よ)しく太だ枯寂(こじゃく)なるべからず。」
注釈:
- 念頭(ねんとう)…考え方、心の向け方。
- 濃やか(こまやか)…繊細で手厚い。丁寧だが、行き過ぎると重苦しい。
- 淡い(あわい)…あっさりしている。軽やかだが、浅薄にもなりうる。
- 居常(きょじょう)…日常生活における態度や好み。
- 濃艶(のうえん)…華やかで情熱的。過度になるとくどく感じられる。
- 枯寂(こじゃく)…味気なく、殺風景。淡白すぎて潤いがない。
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