「貸倒損失」とは、企業が取引先に対して提供した貸付金や売掛金などの債権が、取引先の経営破綻や支払不能によって回収不能となった場合に計上する損失を記録するための勘定科目です。この費用は、損益計算書の「営業外費用」または「特別損失」に分類されることが一般的です。
貸倒損失の原因
貸倒損失が発生する原因には以下のようなものがあります:
- 取引先の倒産
- 破産、会社更生法、民事再生法などの法的手続きによるもの。
- 取引先の支払能力喪失
- 長期の延滞や財務状況の悪化による支払不能。
- 取引先との争議
- 契約不履行やトラブルによる債権の放棄。
- 取引先の所在不明
- 取引先が行方不明になり、連絡が取れなくなった場合。
貸倒損失の会計処理
- 貸倒損失の発生時の仕訳
貸倒損失が確定した際に、債権の帳簿価額を「貸倒損失」として計上します。 例:売掛金10万円が貸倒れとなった場合
借方:貸倒損失 100,000円
貸方:売掛金 100,000円
- 貸倒引当金の利用
貸倒引当金を計上している場合、貸倒損失を引当金から振り替えることができます。 例:売掛金10万円が貸倒れとなり、引当金を利用する場合
借方:貸倒引当金 100,000円
貸方:売掛金 100,000円
- 部分的に回収可能な場合
債権の一部が回収不能となった場合、回収不能額のみを貸倒損失として計上します。 例:売掛金10万円のうち、6万円が回収不能となった場合
借方:貸倒損失 60,000円
貸方:売掛金 60,000円
回収可能額4万円を受け取った場合:
借方:現金 40,000円
貸方:売掛金 40,000円
税務上の取り扱い
- 損金算入が認められる場合
貸倒損失は、法人税法上、以下の条件を満たす場合に損金(経費)として認められます:
- 法的手続きが行われている(破産、民事再生など)。
- 回収不能であることが合理的に判断される(取引先が所在不明など)。
- 損金算入が認められない場合
以下のケースでは損金算入が認められない場合があります:
- 債務免除に合理性がない場合。
- 債権の放棄が恣意的である場合。
- 貸倒引当金との関係
税務上、貸倒引当金として計上されている範囲内であれば、貸倒損失として損金算入が容易です。
貸倒損失の具体例
- 売掛金が全額貸倒れの場合
借方:貸倒損失 200,000円
貸方:売掛金 200,000円
- 貸倒引当金の利用
借方:貸倒引当金 150,000円
貸方:売掛金 150,000円
- 回収不能額のみ貸倒損失として計上
例:売掛金10万円のうち、2万円が回収不能
借方:貸倒損失 20,000円
貸方:売掛金 20,000円
回収可能額8万円を受け取った場合:
借方:現金 80,000円
貸方:売掛金 80,000円
貸倒損失の注意点
- 回収可能性の判断基準
貸倒れとするためには、合理的な判断基準が必要です。債権回収の努力や手続きを記録し、証拠を保管します。 - 税務調査への備え
税務署は貸倒損失の妥当性を厳しく確認する場合があります。回収不能の証拠を適切に用意します。 - 貸倒引当金の利用
貸倒引当金を活用することで、損失の影響を平準化できます。 - 取引先管理の徹底
貸倒れリスクを軽減するため、取引先の信用管理や定期的な与信審査を行います。
貸倒損失の管理方法
- 債権管理システムの導入
債権の状況を一元管理し、回収漏れや貸倒リスクを早期に発見します。 - 与信管理の強化
取引先の信用状況を定期的に確認し、新規取引開始時には十分な審査を行います。 - 税理士との連携
貸倒損失の計上や税務申告について、税理士に相談して正確な対応を行います。 - 証拠書類の保存
貸倒損失の妥当性を証明するため、取引先とのやり取りや回収努力の記録を保存します。
まとめ
「貸倒損失」は、債権回収が不能になった場合に計上される重要な会計項目であり、正確な判断と記録が求められます。合理的な回収不能の判断基準を設け、税務上の要件を満たすことで、適切な損金算入が可能です。また、取引先管理を徹底することで、貸倒リスクを最小限に抑えることができます。
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