孔子は、贅沢すぎることも、倹約しすぎることも、ともに人格を損なうと語った。
贅沢が過ぎれば人は不遜(ふそん)=うぬぼれやごう慢になり、周囲に高圧的な印象を与える。
一方、倹約が過ぎると、固(こ)=頑なでけちくさく、他人が寄り付きにくい人間になる。
どちらも極端でよくないが、孔子はこう結んだ――
「どちらかを選ばねばならないなら、まだ“がんこ”である方がマシだ」と。
これは、誇り高く人を見下すような贅沢よりも、自分を律する倹約の方がまだ徳に近いという意味である。
原文・ふりがな付き引用
子(し)曰(い)わく、奢(しゃ)なれば則(すなわ)ち不孫(ふそん)、倹(けん)なれば則ち固(こ)し。
其(そ)の不孫(ふそん)より寧(むし)ろ固(こ)かれ。
注釈
- 奢(しゃ) … 贅沢・浪費の意。ここでは生活ぶりや態度が過剰であること。
- 不孫(ふそん) … 慢心し、人を見下すような傲慢さ。礼を欠くこと。
- 倹(けん) … 無駄を省く慎ましい生活態度。
- 固(こ) … 頑固で人情味に欠けるような、付き合いにくさ。
- 寧ろ固かれ … それでもまだ、倹約によるがんこの方が、贅沢による傲慢さよりはマシだという価値判断。
1. 原文
子曰、奢則不孫、儉則固、與其不孫也、寧固。
2. 書き下し文
子(し)曰(い)わく、奢(しゃ)なれば則(すなわ)ち不孫(ふそん)、倹(けん)なれば則ち固(こ)し。
其(そ)の不孫よりは、寧(むし)ろ固かれ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「奢なれば則ち不孫」
→ 贅沢に流れると、人は礼儀を失い、傲慢になりやすい。 - 「倹なれば則ち固し」
→ 倹約を重んじすぎると、視野が狭くなり、融通の利かない態度になりがちである。 - 「其の不孫よりは、寧ろ固かれ」
→ だが、礼を欠く傲慢さよりも、むしろ固い(頑な)方がまだましである。
4. 用語解説
- 奢(しゃ):ぜいたく。度を超えた華美な生活や態度。
- 不孫(ふそん):謙遜でなく、傲慢なこと。礼儀をわきまえない状態。
- 倹(けん):質素・節約。無駄を排し控えめな生き方。
- 固(こ)し:かたくな、頑固。融通がきかず、狭量になりやすい。
- 寧ろ(むしろ)~かれ:比較対象として、「どちらかといえば~の方がよい」という選択を示す。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言いました:
「贅沢に流れると人は礼を失い、傲慢になる。
倹約に努めると、かたくなで融通の利かない面も出てくるが、
傲慢で礼儀を欠くよりは、かたくなである方がまだよい。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子の**「徳と礼を守るための実践的選択基準」**を示しています。
- 贅沢は人を甘やかし、礼節や謙虚さを失わせやすい
- 倹約は時に融通のなさを生むが、本質的な道徳や礼儀は守られやすい
- 孔子は、「礼」を大切にする立場から、行き過ぎた贅沢よりは“慎み深さ”を選ぶべきと教えています
これは単なるライフスタイルの話ではなく、人格・人間関係・組織文化のあり方に深く通じる考えです。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「ぜいたくより、慎みが信頼を生む」
──過剰な演出や高コスト体質は、傲慢さや顧客無視を生みやすい。
■「倹約はときに頑固さを伴うが、礼を失わない」
──節度のある経営は、過剰な浪費を防ぎ、持続可能性と尊敬を保つ。
■「礼儀や謙虚さがあれば、多少の頑なさも許される」
──多少不器用でも、礼を重んじる人・組織は信頼される。
■「“派手さ”より“礼節”を軸に」
──ブランドイメージや接客方針においても、“質素で誠実”な姿勢は高い評価につながる。
8. ビジネス用心得タイトル
「奢らず、かたくなに──礼を守る倹約が信頼を生む」
この章句は、企業文化のあり方、サービスの設計、リーダーの品格などにおいて、
「見せかけの豊かさより、内面の誠実さを重んじよ」という持続的な価値基準を与えてくれます。
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