どんなに高く聳え立つ山でも、その頂があまりにも険しく切り立っていれば、木は生えない。
一方で、谷川のあたりには、草木が群れをなして生い茂る。
また、水の流れが急激なところには魚が住めない。
だが、流れがゆったりと滞っている深い淵には、魚やスッポンが自然と集まってくる。
これは人の在り方にも通じている。
どれほど志が高くとも、人とのかかわりを拒むような孤高の行動に走れば、人は離れていく。
また、どれほど熱意があっても、心が狭く、性急であれば、誰もついてこない。
君子たる者――すなわち、真に徳を備えた人物であろうとするならば、
孤高や急進に酔わず、むしろ深く静かに、人が寄ってくるような在り方をめざすべきである。
原文(ふりがな付き)
「山(やま)の高峻(こうしゅん)なる処(ところ)には木(き)無(な)く、
而(しか)して谿谷(けいこく)廻環(かいかん)すれば、則(すなわ)ち草木(そうもく)叢生(そうせい)す。
水(みず)の湍急(たんきゅう)なる処には魚(うお)無く、
而して淵潭(えんたん)停蓄(ていちく)すれば、則ち魚鱉(ぎょべつ)聚集(しゅうしゅう)す。
此(こ)の高絶(こうぜつ)の行(こう)い、褊急(へんきゅう)の衷(こころ)は、
君子(くんし)重(おも)く戒(いまし)むる有(あ)れ。」
注釈
- 高峻(こうしゅん):非常に高く険しい山。
- 湍急(たんきゅう):激しい水の流れ。
- 淵潭(えんたん):水の深く静かな淵。
- 魚鱉(ぎょべつ):魚やスッポン。多くの生命が集まる象徴。
- 高絶の行(こうぜつのこうい):孤高で他と交わらない行動。
- 褊急の衷(へんきゅうのこころ):心が狭く、せっかちな気質。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
avoid-arrogant-isolation
(孤高の驕りを避けよ)gentle-depths-gather-life
(深く静かに、人は集まる)greatness-needs-humility-and-patience
(真の偉大さには寛容と忍耐がいる)
この条は、**「高すぎる山には誰も登れない。速すぎる流れには誰もついてこない」**という、
人間関係・リーダーシップ・人格形成における大原則を、美しい自然の比喩で表現しています。
現代社会においても、孤高な才能や性急な熱意が、人と調和しなければ意味を失うことは多々あります。
深く、静かに、あたたかく在ること――それが、人を惹きつけ、真に成すべきことを成すための土台となるのです。
1. 原文
山之高峻處無木、而谿谷廻環、則草木叢生。
水之湍急處無魚、而淵潭停蓄、則魚鱉聚集。
此高絶之行、褊急之衷、君子重有戒焉。
2. 書き下し文
山の高峻なる処には木無く、而して谿谷(けいこく)廻環すれば、則ち草木叢生す。
水の湍急(たんきゅう)なる処には魚無く、而して淵潭(えんたん)停蓄すれば、則ち魚鱉(ぎょべつ)聚集す。
此の高絶の行、褊急(へんきゅう)の衷(ちゅう)は、君子重く戒むる有れ。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「山があまりに高く険しければ木は生えず、しかし谷が曲がりくねって水を蓄えるような場所には草木が豊かに生い茂る」
- 「水があまりに速く流れていれば魚は住めないが、深い淵や静かな水たまりには魚や亀が集まる」
- 「このように、過度に峻厳な行動や性急な気性は、君子たる者が特に戒めるべきものである」
4. 用語解説
- 高峻(こうしゅん):非常に高く険しいさま。
- 谿谷廻環(けいこく かいかん):谷間が曲がりくねっている地形。
- 湍急(たんきゅう):急流。流れが速く荒いこと。
- 淵潭(えんたん):深く静かな水のたまり。落ち着いた場所。
- 魚鱉(ぎょべつ):魚とカメ。生き物の象徴。
- 高絶の行(こうぜつのこう):高潔すぎて人に寄せ付けないような行い。
- 褊急の衷(へんきゅうのちゅう):狭量で短気な心情。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
山が高すぎれば木は育たず、流れが急すぎる川には魚がいない。だが、谷のように曲がりくねって水をためる場所には草木が生え、深い淵のような水域には魚やカメが集まる。これと同様に、過度に高潔ぶる行動や、気性の激しさは、人徳を損ねる恐れがあるため、徳のある人物は深くこれを戒めなければならない。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「極端な高潔さや性急さは、かえって徳を損なう」**という教えです。
- 高すぎる山=人間関係が根付かない孤高な態度
→ 過度な理想や清廉潔白を貫こうとしすぎると、人が近づけなくなり、孤立する。 - 急すぎる水流=落ち着きや寛容さのない性格
→ 短気で激しい言動は、周囲の信頼を失い、人も成果も寄りつかない。
つまり、柔らかく、受け入れ、ため込む“包容の力”こそが、真に人を集める資質であることを説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「ストイックすぎるリーダーは孤立する」
- 理想が高く、完璧主義に走りすぎるリーダーは、部下がついていけず、組織が硬直化する。
- 自他に厳しくするよりも、“適度な余白”を持った姿勢が人望を生む。
●「急ぎすぎるプロジェクトは成果を逃す」
- 性急な判断や圧力によるマネジメントは、メンバーの創造性と安心感を奪う。
- 成果の“熟成”には静けさと蓄積の時間が必要である。
●「柔らかい人格が“人と成果”を引き寄せる」
- 弾力のあるリーダー、共感力のあるマネージャーは、人も情報も自然と集まる存在になる。
- 自らを“淵潭”のような存在に育てることが、組織の知恵と力の源泉となる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「高すぎず、急ぎすぎず──人を集める“深さと包容”」
この章句は、自己鍛錬を重ねる者やリーダーに対して、**「過ぎたるは及ばざるがごとし」**という自然の摂理を教えています。
- 孤高であるより包容を。
- 鋭さより深さを。
- 速さより、蓄えと静けさを。
コメント