目次
📖 引用原文
悪いものは善いすがたをもって、憎らしいものは愛しきもののすがたをもって、苦しみは安楽のすがたをもって、放逸なる者どもを粉砕してしまう。
——『ダンマパダ(法句経)』第5章 第十二句
🧩 逐語訳
- 悪いものは善いすがたをもって、
本来は有害であるものが、あたかも善良であるかのような姿で現れる。 - 憎らしいものは愛しきもののすがたをもって、
忌むべき性質を持つものが、好ましく魅力的に見える。 - 苦しみは安楽のすがたをもって、
本質的には苦痛であるものが、楽しい・心地よいものに見える。 - 放逸なる者どもを粉砕してしまう。
見かけに流される無警戒な人々は、これらに心を奪われ、破滅してしまう。
🔍 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
善いすがた | 道徳的・魅力的・優れて見える外見・印象。 |
放逸(ほういつ) | 自制心を失い、欲望や怠惰に流されること。警戒心や内省を持たない状態。 |
粉砕 | 比喩的に「滅ぼす・破壊する」こと。精神的崩壊や堕落を意味する。 |
すがた | ここでは「外見」だけでなく、「印象」や「見え方」も含む。 |
🗣 全体の現代語訳(まとめ)
本来、害となるものが、あたかも良いものであるかのように現れ、
忌むべきものが、愛すべきもののように感じられ、
苦しみが、一時の快楽として心を惹きつける。
それらの「見かけ」に惑わされた者は、
油断の末に、心身を滅ぼされてしまう。
🧠 解釈と現代的意義
この句は、「本質と見かけはしばしば逆である」という、人間の知覚の限界と危うさを鋭く指摘しています。
欲望・誘惑・安楽は、甘い姿で近づいてきますが、
その奥には苦しみや破滅が潜んでいることも少なくありません。
現代社会では、「心地よいこと=善いこと」と錯覚されがちですが、
仏教は「その背後にある因果」を観よと警鐘を鳴らしています。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
投資・判断 | 短期的な利益や表面的な魅力に惑わされると、長期的損失や失敗につながる。 |
人間関係 | 表面的に「良い人」に見える者が、実際には損得で動くこともある。見極めには慎重さが必要。 |
プロジェクト選定 | 「楽しそう」「簡単そう」と思った仕事が、実は大きなリスクや負担を伴うこともある。 |
組織文化 | 「自由」「柔軟性」と称される環境が、実際にはルールなき混乱であることも。安易に理想化しない洞察力が求められる。 |
🧭 心得まとめ
「心地よさは、いつも善ではない。魅力的なものほど、用心せよ」
現代は「見た目」「印象」「快適さ」が評価基準になりやすい時代です。
しかし、仏教はそこに明確な警告を発します。
「よく見えるものが、良いとは限らない」――むしろ、悪は善を装い、苦は快に化ける。
それを見抜けるかどうかは、日々の自制と観察、そして智慧の積み重ねにかかっています。
放逸(無自覚)であることこそが、最も危険な生き方だと、この句は静かに語りかけています。
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