企業が成長し続けるためには、売上状況を適切に把握し、景気や市場の変動に敏感に対応する必要がある。
特に、月ごとのデータだけでなく「年計」を活用することが、売上の傾向を理解し、的確な意思決定を行うための重要な手段となる。
以下、年計の重要性と、それをもとにした経営判断についての解説である。
年計はどうなっているか
商品別、得意先別、輸出などの月商額を年度ごとに線グラフで重ねたものを作成しても、月ごとや年度ごとに売上が大きく変動しているため、線は激しく上下し交錯しており、表からは何も読み取れない状態になってしまう。
グラフは一目で「傾向」を読み取れるものでなければ意味がない。
上昇や下降、拡大や縮小といった傾向を正しく把握することで、初めて正確な状況判断と適切な決断が可能になるのだと。
売上のグラフでは、何よりもまず上昇と下降の傾向を把握することが重要だ。その傾向を正確に捉えるには「年計」が最も適している。
毎年売上が上昇していると思ってても、年計グラフは、実際には一社へのたった一品の売上が大幅に伸びているだけであり、他の全ての商品や輸出は、じりじりと下降線をたどっていたりする。
さらに、唯一売上が伸びている商品は、すべて外注によるもので、担当は女子事務員一人だけという状況だったりもする。
一方で、数百名の社員が懸命に取り組んでいる他の商品はすべて下降線をたどり、占有率が下がっていくという大きな危険を抱えていたのである。
月別の売上と年計の違い
月別の売上はさまざまな要因で大きく変動する。例えば、月ごとの操業日数の違いが影響する。
仕掛期間が長い商品や、納期遅れで翌月に納品されたものは、完成納入の月に売上が一気に増える。また、問屋にまとめて納める商品は、大量納入の翌月には売上が落ちる。さらに、12月は忙しくても、1月には仕事が急減するなどの変動もある。
特に大きな変動要因となるのは季節変動だ。このように様々な要因で月々の売上が変動するため、単純に月別の売上を比較しても、事態の正確な把握にはつながらない。
特に繁忙期と閑散期の売上を比較しても、ほとんど意味がない。
こうした状況では、月々の売上をそのままグラフ化しても、何も見えてこない。
急上昇している場合、月別の売上でも上昇自体は把握できるが、その上昇傾向が加速しているのか、鈍化しているのかまでは分からない。
正確に傾向を把握するためには、月々の変動要因を取り除く必要がある。この要件を満たすのが「年計」である。
年計とは?年計の意義と役割
年計とは「一年間の数字を、ひと月ずつ移動させて累計する」計算法であり、別名「移動累計」とも呼ばれる。
売上年計とは「一年間の売上をひと月ずつ移動させながら累計する」ことを指す。例えば、
- 平成3年12月の売り上げ年計=平成3年1月〜12月の12ヶ月の売上累計
- 平成4年1月の売り上げ年計=平成3年2月〜平成4年1月の12ヶ月の売上累計
- 平成4年2月の売り上げ年計=平成3年3月〜平成4年2月の12ヶ月の売上累計
というようになる。
つまり、平成三年十二月の売上年計とは、「その月を含む過去一年間の売上高」を示すものになる。
右の①、②、③のような二つの売上年計を比較すると、どれも一年(十二カ月)分のデータを含んでいるため、月ごとの特殊事情や季節変動の影響を受けていない。
年計は、このように季節変動や一時的な要因の影響を消すことを目的として工夫された方法である。
季節変動が消えるため、純粋に上昇や下降の傾向だけを把握できるようになる。さらに、季節以外で月ごとに繰り返し発生する変動、例えば12月の追込み売上や、1月・2月の操業日数減少、定期的な夏休みなどの影響も完全に取り除くことができる。
ただし、スポット的に発生する大きな変動は完全には消せないが、それも一年間の売上に対する影響として反映されるため、月別比較の際には十三分の一に縮小される。これにより、事態の判断が難しくなることはない。
年計グラフに反映すると、そうした変動はわずかな凹凸として表れるに過ぎず、大局に影響を与えないことがよくわかる。(第2表参照)
先に挙げた年計の計算例①と②を比較すると、①の数字から平成二年一月の売上を引き、平成四年一月の売上を加えると②になることがわかる。
したがって、①と②の数字の差は、平成二年一月と平成四年一月の売上の差、つまり「前年同月比」の差だけとなる。
前年同月比が上がれば年計も上がり、前年同月比が下がれば年計も下がる。ただし、この差は一年間の売上全体に対する前年同月比の差であるため、ごくわずかなものとなる。
したがって、年計をグラフ化すると、緩やかな上り下りの波として現れることがわかるだろう。緩やかでありながら、非常に敏感に変化を反映している。
これは前年同月比が下がると、即座に年計も下がるためだ。この敏感さこそ年計の特徴であり、非常に価値がある。状況が変わった瞬間にそれを知らせてくれるため、非常に頼りになる。また、見方を変えれば、「毎月、売上の年次決算を行っている」ということにもなるのだ。
この変化の激しい世の中では、年一回の決算ではタイミングを逃す恐れがある。だからこそ、売上を毎月「年次決算」することが重要なのだ。年計はこのニーズに見事に応えてくれる手法といえる。
年計は何年も連続して取り続けるべきである。これにより、年計は私たちに二つの貴重な情報を提供してくれる。
年計からわかる情報
一つは長期的な傾向、もう一つは景気の変動である。
長期的な傾向
年計グラフの典型は、緩やかな波を打ちながら進行する。この波の進行方向が、長期的な上昇、横ばい、または下降といった傾向を示し、波の上下が景気の変動を表している。
ただし、生活必需品の場合は、景気変動が年計にほとんど影響しない。
景気の変動
そして、次に注目すべきは、景気変動を示す緩やかな上下の波の性質だ。これを理解して適切な手を打つことが重要である。
言うまでもなく、波の底から頂上までが景気の上昇期であり、波の頂上から底までが下降期である。
波が頂上に近づくと上昇が次第に緩やかになり、やがて頭打ちとなって、緩やかに下降を始め、傾斜が徐々に急になっていく。
一方、波の底に近づくと傾斜が緩やかになり、平らになった後、緩やかな上昇に転じ、次第に傾斜が急になる、という形をとる。
つまり、景気の転換点付近では、上昇や下降の度合が緩やかになるということである。
もう一つの特性として、この上昇と下降は、一度上がり始めると少なくとも数カ月、あるいはそれ以上の期間にわたって上昇を続け、下がり始めると同じく数カ月以上下降を続ける、という点がある。
その理由は、経済活動が惰性で動くためである。この二つの特性を知っていれば、景気の転換点が近づいていることが分かり、さらにその転換点を正確に捉えることができる。
年計がこれほど敏感である理由は、前年同月比が下がるとすぐに年計も下がるからだ。もし年計が2カ月続けて下がった場合、ほぼ確実に景気は下降期に入ったと考えてよい。そして、この下降が当分続くと見れば、打つべき対策はさまざまに考えられる。
年計別対策
景気の下降期の対策
景気が下降期に入ったとわかったとき、最初に打つべきは資金対策である。売上が減少する中で、売上が多かった時期に振り出した手形の決済を進めなければならないからだ。
まずは売掛金の回収を急ぐ。資材の調達は当座必要な分だけにとどめ、不急の支出はすべて止める。新規の設備投資は当然控え、進行中の設備投資も中止可能なものは中止し、難しい場合でも延期やペースダウンを検討する。また、場合によっては新入社員の採用や欠員補充の削減、中止、延期も必要になるかもしれない。
さらに、早めに銀行と交渉し、借入れやそのための約束を取り付けることが重要だ。ただし、約束は状況によって反故にされるリスクもあることを念頭に置いておく必要がある。
景気が上昇に転じたとき
景気が上昇に転じたときには、他社に先んじて行動を起こすことが肝心だ。これは「先手必勝」の原理である。
延期していた設備投資を再開し、他社がまだ動き出していないうちに、有利な条件で契約をまとめる。値上がりの可能性が高い商品や資材、とりわけ市況商品については迅速に手当てし、有利な決済条件を結ぶことがポイントとなる。
さらに、強気の見込み生産を行うなど、景気下降期とは逆の施策を実行すればよい。
年計はいつも典型的な形をとるとは限らず、さまざまなパターンが現れる。その形から、私たちは多くのことを学ぶことができる。
年計が横ばい、あるいはじりじりと下がっている場合
まず、年計が横ばい、あるいはじりじりと下がっている場合がある。これは「限界生産者」や「限界商品」に見られる典型的な兆候であり、倒産に向かって突き進んでいる危険な状態を示している。
このような状況では、早急に対策を講じなければ重大な事態を招くことになる。
具体的な対策としては、まず商品に大きな欠陥がないかを確認することが挙げられる。もう一つは、商品構造に欠陥がないかを見直すことだ。これらの点については、社長自身がお客様のもとを訪れ、直接教えを請うのが最も効果的な方法である。
決して社員任せにしてはならない。会社の存続がかかる重要な分岐点を社員に任せて探らせるような社長では、全く期待が持てない。
もう一つの重要な対策は、販売戦略の再検討である。最大の誤りは、常に自社の商品を自らの手で売ろうとしない姿勢にある。どのような状況であれ、自社の商品は自らの手で直接販売しなければならない。この認識が欠けている限り、販売はほとんど確実に伸び悩むだろう。
たとえ一時的に売上が伸びたとしても、やがて頭打ちになってしまう。しかし、業績不振の会社はもちろん、中小企業全般においても、販売に対して意欲や関心を示さない社長が多すぎるのが実情だ。
販売戦略についての詳細は『販売戦略・市場戦略』編に詳述してあるため、ここではそちらに譲ることとする。
釘折れ現象について
次に、年計に「釘折れ」が見られる場合がある。これは、内外の何らかの変化が影響していることを示している。
強力な競合企業の新規参入や新商品の開発、あるいは当社の主力商品の類似品の出現など、外部要因の変化が実際に当社にどれほどの影響を及ぼしているかを示している。
社内要因の変化としては、新たな得意先の獲得、新商品や新事業の展開、新営業所の開設、値上げや値下げなどが、当社の業績にどれだけ影響を与えたかを定量的に示している。
「釘折れ」の発生とその度合いによって、自社の施策の成否を把握し、評価することができる。
大きく不規則な凹凸が見られる場合
次に、大きく不規則な凹凸が見られる場合である。これは一件当たりの金額が大きい企業で発生しやすい。突然大きな物件の売上が発生した場合、その影響は一年後には消えてしまうため、長期的には無視してよい。
無視できないのは、こうした不規則な凹凸が常態化している場合である。これは、その会社の規模に対して物件単価が高額すぎることが原因だ。そのため業績は常に不安定で、会社の基盤が固まらない。したがって、物件単価を引き下げ、受注数を増やすことで安定を図る必要がある。
これにはかなりの英断が求められる。このような場合、社長が決断するためには、やはり自らお客様を訪問し、意向を直接聞くことが重要だ。社内で相談すれば、必ずと言っていいほど反対に遭うからである。
まとめ
年計は、企業の成長や景気の動向を把握し、戦略的な意思決定を行うための強力なツールです。特に、月ごとの短期的な変動に惑わされることなく、企業の長期的な方向性を定めるためには、年計を定期的に確認し、経営の指針とすることが重要です。
課題
- 全体売上の年計を作成する。
- 全体の利益の年計を作成する。
- 事業別売上の年計を作成する。
- 事業別利益の年計を作成する。
- 商品別売上年計を作成する。
- 商品別利益年計を作成する。
- 得意先別売上年計を作成する。
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