忙しいときにも心の余裕を保ちたいと願うのなら、まずは時間に追われない静かなときに、自分の心の「つか(柄)」を探しておくことが必要である。
また、騒がしい状況でも静けさを保ちたいと思うなら、まず落ち着いた環境で、自分の心の主宰=主体性を確立しておくことが肝要である。
そうでなければ、いざ忙しさや騒がしさに巻き込まれたとき、心は周囲の状況に流され、次々起こる出来事に振り回されてしまうだろう。
つまり、平常のときこそ、心の構えを作るときである。
剣の柄(つか)をしっかり握っていなければ、いざ戦うときに力を入れることができないのと同じように、
日々の静かなときにこそ、心の位置や軸を探り、整えておく必要がある。
原文(ふりがな付き)
「忙裡(ぼうり)に閒(ひま)を偸(ぬす)まんと要(よう)せば、
須(すべか)らく先(ま)ず閒時(かんじ)に向(む)かって、
個(いっこ)の欛柄(ひょうへい)を討(もと)むべし。
閙中(どうちゅう)に静(せい)を取(と)らんことを要せば、
須らく先(ま)ず静処(せいしょ)より、個の主宰(しゅさい)を立(た)つべし。
然(しか)らざれば、未(いま)だ境(きょう)に因(よ)りて遷(うつ)り、
事(こと)に随(したが)って靡(なび)かざる者(もの)有(あ)らず。」
注釈
- 欛柄(ひょうへい):剣の柄(つか)。比喩として、心の拠り所・支え。
- 閙中(どうちゅう):騒がしく乱れた状況の中。仕事や人間関係の混乱時など。
- 主宰(しゅさい)を立つ:自分の心を主とし、環境や状況に左右されない軸を確立すること。
- 靡く(なびく):流される。周囲に影響されて揺れること。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
anchor-your-mind-early
(心の錨は前もって)find-stillness-before-chaos
(混乱の前に静けさを)build-your-center-in-peace
(平穏なときに中心を築け)
この条は、現代人にとってとくに切実な教えです。
情報の波や人間関係、タスクの奔流のなかで、自分の心の居場所を失いがちな今こそ、
「静かなときに整えた心」が、嵐の中でも揺るがぬ軸となるという言葉は、力強く響いてきます。
1. 原文
忙裡偸閒、須先向閒時、討個欛柄。
閙中取靜、須先從靜處、立個主宰。
不然、未有不因境而遷、隨事而靡者。
2. 書き下し文
忙(ぼう)裡(り)に閒(ひま)を偸(ぬす)まんとせば、須(すべか)らく先ず閒時に向かって、個(ひとつ)の欛柄(はへい)を討(もと)むべし。
閙(どう)中に静(せい)を取らんとせば、須らく先ず静処より、個の主宰(しゅさい)を立つべし。
然(しか)らざれば、未(いま)だ境(きょう)に因(よ)りて遷(うつ)らず、事に随って靡(なび)かざる者有らず。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「忙しい中で閑(ひま)を見出そうとするなら、まず暇なときに“心の軸”をつかんでおくべきである」
→ 忙しくなる前に、自分にとって大切な時間や安定をつくっておくことが重要。 - 「騒がしい中で静けさを保とうとするなら、まず静かな環境で“心の主導者”を確立しておくべきだ」
→ 日々の騒動に振り回されないよう、心が落ち着いているときに軸を立てておく必要がある。 - 「さもなくば、人は必ず外の状況に流され、出来事に従って心がなびいてしまうものだ」
→ 事前に準備しておかないと、心は環境に振り回されてしまう。
4. 用語解説
- 偸(ぬす)む:こっそり得る、工夫して捻出する意。忙中閑ありの“閑”を工夫して得ること。
- 欛柄(はへい):柄(え)、すなわち「取っ手」「支点」。ここでは“心を支える軸”の比喩。
- 閙中(どうちゅう):騒がしい中。忙しい、混乱した日常のこと。
- 主宰(しゅさい):主人、公的に主となる者。ここでは「自己の意志・指導者としての心」を指す。
- 境に因りて遷る:環境に流されて変わること。
- 事に随って靡く:物事に引きずられ、自分を失ってしまうこと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
忙しい中で余裕を持ちたいなら、まず余裕がある時に自分の支点を定めておくことが大切だ。
騒がしい日常で静けさを保ちたいなら、心静かなときに自分の主導権を確立しておくべきである。
そうしなければ、誰しもが環境に流され、出来事に振り回されてしまうのが常である。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「心の準備」と「内面の主導権」**の重要性を説いています。
- 人は忙しさや騒動の中で、自分を保つのが難しくなる。
- だからこそ、平常心や冷静さは、“静かな時に鍛えた軸”でしか支えられない。
- 日常のあらゆる選択において、「自分の軸」が定まっている人だけが環境に流されない。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「“忙しくなる前”に、自分の軸とルールを決めておく」
- タスクが増えてからでは思考が流されがち。ルーチンや判断基準は、平常時に整備することが肝心。
●「騒がしい職場や市場でも、静かな心が指針になる」
- 会議中・トラブル中・混乱時こそ、内面の“主宰”が試される。
- 心の軸(ミッションや価値観)があれば、目先の混乱に動じない。
●「感情で動かず、準備で動ける人がプロフェッショナル」
- 感情が先行すると、環境に引きずられる。準備された判断があれば、ブレない。
- 「忙しいからできない」は準備不足の結果であり、「閒の時の軸づくり」ができていれば崩れない。
8. ビジネス用の心得タイトル
「静けさを備え、騒ぎに負けぬ──“心の軸”が変化を超える力となる」
この章句は、「忙しさに流されない生き方」を実現するための古典的マインドセットです。
落ち着いたときにこそ、未来の騒動への準備をせよ。
忙しさに飲まれず、自分の主となる心の軸を鍛えよ。
コメント