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鍛練は日常にあり、志は習慣から生まれる


一、章句(原文)

前神右衛門申付けにて、幼稚の時分、市風に吹かせ、人馴れ申すためとて、唐人町出橋に、節々遣はし候由。五歳より各々様方へ名代に出し申し候。七歳より、がんぢうのためとて、武者草軽をふませ、先祖の寺参り仕らせ候由。
(聞書第二)


二、現代語訳(逐語)

父・神右衛門の命により、自分は幼い頃から市中(町中)に出て使いにやらされた。
これは世間の空気に触れ、人づき合いに慣れるためであったらしい。

五歳のころには、父の名代として諸家(他家)への使いにも出された。
七歳になると、「身体を鍛えるために」と武者草鞋を履かされ、先祖の墓参りをさせられた。


三、用語解説

用語意味
唐人町出橋現在の長崎に近いと考えられる地域で、商人や異文化も行き交った地域。社交的経験を積む場所。
名代(みょうだい)目上の者の代理として訪問・応対する役。非常に責任ある役割。
武者草鞋(むしゃわらじ)戦う者が履く、鍛錬の象徴。実用を超えて「心構え」と「試練」の意味を持つ。
がんぢう(頑丈)丈夫、体力・耐性のある状態。精神的にも肉体的にも強くすることを意味する。

四、全体の現代語訳(まとめ)

常朝は幼い頃、父の教育方針によって、意図的に外の世界に出され、社会に慣れ、責任を担い、身体を鍛える経験を重ねていた。形式だけの学びではなく、「実地の場」で人間力を磨かせる工夫があった。すなわち生活の中に鍛練があるという教育方針である。


五、解釈と現代的意義

この章句が示しているのは、「実践による教育」への信念です。父・神右衛門は、単なる知識や礼儀作法ではなく、「社会の空気を吸う」「責任を負う」「身体を使う」という経験の積み重ねによって、人格や志が養われると考えていたのです。

この教えは、現代の教育観にも強く響きます。幼少期からの「現場経験」や「自律的な実行」は、自己肯定感や課題解決力、適応力の土台となります。


六、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・適用例
新人育成座学よりも、実地経験・現場体験を優先させ、「行動しながら学ばせる」環境が成果につながる。
キャリア形成若いうちから責任ある場に立たせ、失敗も経験させることで、真の成長を促す。
OJTの設計丁寧なマニュアルより、「現場同行」「代理対応」「役割体験」など、実務を通じた育成を重視。
身体性と精神性の連動運動・健康・身体訓練がメンタルと直結するように、「身体を動かす経験」が意志や集中力を育てる。

七、心得まとめ

  • 真の教育は「実体験」にあり、知識はその補助に過ぎない。
  • 志や人間性は、幼少のころからの日常の訓練と習慣の積み重ねによって育つ。
  • 鍛練とは特別な修行ではなく、「使いに出す」「歩かせる」「責任を持たせる」といった、日常に織り込まれるものである。
  • ビジネスや育成においても、「やらせてみる」「任せてみる」ことがもっとも強い教育になる。

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