■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、いかなる束縛をも断ち切る。
――『ダンマパダ』第23節(二三)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:自分の選択・行動・心の在り方を決めるのは、他人ではなく自己自身であるという根本命題。
- 他人がどうして主であろうか?:他人の意見・期待・評価・制度などに自分の人生を明け渡すな、という戒め。
- 賢者(パンディタ):内面を深く観察し、煩悩を克服し、自律的に生きる実践者。
- 身をよくととのえて:言葉・行動・思考・習慣・感情のすべてを清らかにし、整えた状態。
- いかなる束縛をも断ち切る:欲望、怒り、慢心、恐れ、執着、比較、依存、人間関係、制度的制限など、外内の一切から自由になること=解脱(ヴィムッティ)。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この世界において、自分の心と行いを支配するのは他人ではない。
自らをよく整えた賢者は、いかなる束縛――
内なる欲望や外からの制約、人の目や制度――
それらすべてを乗り越え、完全な自由に至る。」
ここで説かれる自由とは、物理的自由や一時的快楽ではなく、精神の絶対的な独立性=悟りの自由です。
■ 解釈と現代的意義
この章句が現代に与える最も大きな意義は、**「真の自由は、自己の整えから生まれる」**という逆説的な真理です。
現代では、「自由」とは選択肢の多さ、規制のなさ、好き勝手できることとされがちです。
しかし仏教が示すのは、次のような深い智慧です:
自分を律する者だけが、何ものにも支配されない。
執着や不安、承認欲求、習慣の奴隷でいる限り、本当の自由は得られない。
この章句はまさに、心の最終的な独立宣言なのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
真の自立 | 他人の評価や報酬に依存せず、自分の価値判断に従って行動できる人は、長期的に信頼される。 |
リーダーの境地 | プレッシャーや風評・制度に左右されず、原則に立脚した決断を下せるリーダーが、組織を守る。 |
働き方の転換 | 自由に見えるリモートワークでも、自己管理できない限りは逆に苦しむ。「律してこそ自由」が鍵となる。 |
パーソナルブランディング | 他人の期待に迎合するのではなく、自らの整えによって、静かに人を惹きつける本物の影響力を築く。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「律する者は、縛られぬ」
他人でも環境でもない。
己の中の欲望・怠惰・執着――それが真の束縛である。
だが、それらを静かに断ち切る者こそ、
誰にも支配されない自由の境地に至る。
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