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年齢によって、戒めるべき欲望は変わる

人は誰しも年を重ね、心も体も変わっていく。
孔子は、人生の三つの段階に応じて、それぞれにふさわしい「自戒の対象」があると説いた。

若いときは、心が定まらず、感情に流されやすい。だからこそ、「色欲」を慎むべきである。
働き盛りの壮年期は、力がみなぎり、対立心や闘争心が強くなる。だから「争い」を戒める必要がある。
そして老年期には、体力や気力が衰える一方で、「得たい」という欲――特に財や名誉への執着――が現れやすくなる。それをしっかり抑えることが肝心だ。

年齢に応じた弱点を見つめ、自らを律してこそ、真の君子たりえる。


【原文引用(ふりがな付き)】

「孔子(こうし)曰(い)わく、君子(くんし)に三戒(さんかい)有(あ)り。少(わか)き時(とき)は血氣(けっき)未(いま)だ定(さだ)まらず、之(これ)を戒(いまし)むるは色(いろ)に在(あ)り。其(そ)の壯(さか)んにしては血氣方(まさ)に剛(ごう)なり、之を戒むるは鬭(たたか)いに在り。其の老(お)いに至(いた)れば、血氣既(すで)に衰(おとろ)う、之を戒むるは得(とく)に在り。」


【現代語訳・主旨】

君子には、人生の段階ごとに三つの戒めがある:

  1. **青年期(少)**は、感情が定まらず情欲が強くなる。だから「色(色欲)」を慎むこと。
  2. **壮年期(壮)**は、気力が充実し、好戦的になりやすい。だから「争い」を戒めること。
  3. **老年期(老)**は、体力が衰える代わりに「得たい」という我欲が強くなる。だから「欲望(特に財欲)」を慎むこと。

【注釈】

  • 「少(しょう)」:青年期。20代前後。血気=情動が未成熟で、感情や性欲に流されやすい時期。
  • 「壮(そう)」:壮年期。30代から40代。力が盛んで、外向きに闘争的になりがち。
  • 「老(ろう)」:老年期。50代以降とも言われるが、孔子の時代では40代も含む。
  • 「得(とく)」:何かを「得る」ことへの執着。我欲・物欲・名誉欲などを含む。

原文:

孔子曰、君子有三戒。
少之時、血氣未定、戒之在色。
其壯也、血氣方剛、戒之在鬥。
其老也、血氣既衰、戒之在得。


目次

書き下し文:

孔子(こうし)曰(いわ)く、君子(くんし)に三(み)つの戒(いまし)め有り。
少(わか)きときは血氣(けっき)未(いま)だ定まらず、之(これ)を戒(いまし)むるは色(いろ)に在(あ)り。
其(そ)の壮(さか)んなるや、血氣方(まさ)に剛(ごう)なり、之を戒むるは鬥(とう)に在り。
其の老(お)いなるや、血氣既(すで)に衰(おとろ)う、之を戒むるは得(とく)に在り。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った。
  2. 「君子には三つの戒め(注意すべきこと)がある。」
  3. 「若い時は血気が定まらない(=感情が不安定)ため、色欲を慎むことが戒めとなる。」
  4. 「壮年期には血気が盛んで強すぎるため、闘争心や怒りを慎むことが戒めとなる。」
  5. 「老年期になると血気が衰えてくるため、貪欲・欲得を慎むことが戒めとなる。」

用語解説:

  • 君子(くんし):徳と教養を備えた理想的人物。自己修養を重んじる人。
  • 三戒(さんかい):人生の三段階でそれぞれ気をつけるべき戒め。
  • 少(しょう)/少の時:青年期。10代~20代。
  • 色(しょく):色欲、異性への欲望や衝動。
  • 壯(そう)/壮の時:壮年期。30代~50代。力と気力が充実した時期。
  • 鬥(とう):争い、競争、闘争心、自己主張。
  • 老(ろう)/老の時:老年期。60代以降。体力・精力が衰える時期。
  • 得(とく):利益・所有欲・地位・名誉などを得ようとする貪欲さ。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう語った:
「理想的な人物(君子)にも、人生の段階ごとに三つの戒めがある。
若い時は、感情や欲望が未熟で不安定だから、異性への色欲を慎むことが大切である。
壮年期には、力や気力が強くなるため、争いごとや無用な対立を避けることが大切である。
老年になれば、欲望は減るように見えて、かえって利得への執着が強まることがあるため、貪欲を慎むことが大切である。」


解釈と現代的意義:

この章句は、「人は年齢によって異なる弱点を持つ」という洞察に基づいており、それぞれの人生段階で自己制御が求められると説いています。

  • 青年は欲望と感情の暴走を、
  • 壮年は競争心と権力欲の過剰を、
  • 老年は欲深さと名利への執着を――自覚し、制御する必要がある。

つまり、人間の成長とは「年齢に応じた戒めと向き合い続ける営み」である、という倫理的・心理的な洞察です。


ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「若い社員には“品格ある自己抑制”を」

まだ経験が浅い段階では、自分を律する力が未熟なため、公私の線引きや職場での節度ある行動(ハラスメント防止など)が重要。

2. 「中堅管理職は“闘うべきこと”を選べ」

力や責任を得ると、“勝つこと”や“正しさの主張”にこだわりがち。真のリーダーは争うのではなく、“導く”姿勢を学ぶべき時期。

3. 「ベテランほど“欲のない心”が信頼を生む」

引退や後進育成のフェーズでは、「まだ自分が主役でいたい」という執着は組織の未来を阻む。
“去り際の美学”をもって、潔く身を引くことが真のリーダーシップ。


ビジネス用の心得タイトル:

「年齢に応じた“克己”を──君子はいつも、己を戒める」


この章句は、「自己認識」と「年齢に応じた成熟の道」を説いた、生涯修養の基本姿勢とも言えます。


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