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親しみ・思いやり・愛情――その順序と対象をわきまえる

孟子は、君子が持つべき人や物との関わり方について、「親・仁・愛」の違いと順序を説いている。

君子は物に対して──

「愛」はするが、「仁」はしない。
草木や動物に対して慈しみの心は持つが、必要な場面では伐採したり、屠殺したりもする。それが自然の摂理であり、人としての節度である。

君子は民に対して──

「仁」は持つが、「親」しみはしない。
人々に対しては思いやりの心をもって接するが、血縁関係がない以上、家族のように親密に接するわけではない。そこには礼儀があり、距離感がある。

君子は親に対して──

「親」しみ、そこから仁を広げていく。
まず親を親しみ、その思いやりを人々へと広げていく。そして、民に仁の心をもって接し、その仁の心を持って物にまで愛を及ぼす。

「孟子曰く、君子の物に於けるや、之を愛すれども仁せず。民に於けるや、之を仁すれども親しまず。親を親しみて民を仁し、民を仁して物を愛す」

孟子の言う「親・仁・愛」は、対象ごとに適切な距離と情を持つことが大切であるということを示している。
**最も深い情は親から始まり、それを広げて民へ、そして物に及ぼしていく。**そこには自然な流れと秩序がある。

※注:

  • 「親」…血縁に基づいた深い愛情と親しみ。
  • 「仁」…思いやり・慈しみ。広く人に向ける道徳心。
  • 「愛」…ものに対する慈しみや大切にする気持ち。だが、節度をもって接する。
目次

『孟子』離婁章句下より

1. 原文

孟子曰、君子之於物也、愛之而弗仁、於民也、仁之而弗親、親親而仁民、仁民而愛物。


2. 書き下し文

孟子曰く、君子の物に於(お)けるや、之を愛すれども仁せず。
民に於けるや、之を仁すれども親しまず。
親を親しみて民を仁し、民を仁して物を愛す。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「君子が物に接する場合、それを大切にはするが、仁(人間的な愛情)は注がない」
     → 君子は物質に対して節度ある愛着は持つが、情愛の対象とはしない。
  • 「人々(民)に接する場合、仁義を持って接するが、個人的な親しさではない」
     → 民に対しては公平・仁愛の心を持つが、身内のような関係ではない。
  • 「まずは自分の親を心から親しみ、そこから広く民を仁愛の心で包み、最終的には物までをも慈しむようになる」
     → 愛の広がりには順序があり、自然な展開をたどる。

4. 用語解説

  • 物(ぶつ):道具や財、自然物などの「モノ」。ここでは人間以外の存在を指す。
  • 愛す(あいす):大切にする、節度を持って扱う。
  • 仁(じん):思いやり・人間愛・人徳。儒教の中核的な倫理概念。
  • 親親(しんしん):自分の親を親しむこと。親孝行の実践。
  • 仁民(じんみん):民衆に対して仁徳を持って接すること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

「君子は物を大切にするが、人に向けるような仁の心までは注がない。
民に対しては仁を持って接するが、親しい人のようにはならない。
まず親を親しみ、それから広く民に仁を及ぼし、さらに物にまで愛情を拡げる。
この順序によって、徳は自然と広がっていくのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、孟子の**倫理的愛情の発展段階(親 → 民 → 物)**を示すものであり、儒教における「差等愛(さとうあい)」の思想が根底にあります。

  • 自然な愛の順序
     まずは家族への愛から始まり、それが徐々に社会へ、さらに自然や物質世界へと波及していく。
  • 感情に秩序を与えることの意義
     いきなり「万人を等しく愛せ」とはせず、具体的な人間関係の中から徳を育てるという現実的アプローチ
  • “モノ”への愛着にも節度を求める
     物は大切にするが、それに執着しすぎることは人間性を損なう。

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「価値観の中心は“人”──愛の順序を間違えない」

  • 物を重んじ、効率や利益を追求することは必要だが、人間関係や信頼を犠牲にしてはならない
  • 顧客・従業員・パートナーとの信義を築くことが、最終的に資源の有効活用や利益にもつながる。

✅ 「社員を“家族”のように思うとき、組織は強くなる」

  • 本当に信頼し、支えるべき対象はまず身近な人間関係──
     部下への関心、同僚への配慮、顧客への誠意が、組織全体の徳を育てる。

✅ 「物を大切にする文化は、仁ある組織の証」

  • 備品、設備、時間、メールひとつにも丁寧さを持つことは、人を大切にする企業文化の反映

8. ビジネス用の心得タイトル

「親しみから広がる徳──人を敬い、物を活かすリーダーに」


この章句は、「人を大切にする心が物への丁寧さにつながる」という、現代経営の本質にも通じる深い倫理観を伝えています。

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