功を分かち合えば、心が離れ、恨みを生む。
人は失敗や過ち、困難や苦しみにおいては、
互いに支え合い、助け合うことができる。
むしろ、そうするべきである。
しかし、成功の功績やその後の安楽・幸せとなると、
それを他者と等しく共有することは難しく、しない方がよい。
なぜなら、功を分け合おうとすれば、互いに妬みや警戒が生まれ、
やがては嫉妬や争いへとつながるからである。
患難は人を結びつけ、安楽は人を離反させる。
これは、古今東西、歴史の中に繰り返されてきた人間の悲しき真実である。
原文(ふりがな付き)
当(まさ)に人(ひと)と過(あやま)ちを同(おな)じくすべく、当(まさ)に人と功(こう)を同じくすべからず。功を同じくすれば則(すなわ)ち相(あい)忌(い)む。人と患難(かんなん)を共(とも)にすべく、人と安楽(あんらく)を共にすべからず。安楽なれば則ち相(あい)仇(あだ)とす。
注釈
- 功を同じくす:成功の手柄・功績を平等に分け合うこと。
- 相忌む(あいきむ):互いに妬んだり警戒したりするようになること。
- 患難(かんなん):苦労、困難、試練のこと。
- 安楽(あんらく):成功後の満足、安逸、苦しみのない生活。
- 相仇とす(あいあだとす):互いに恨み合い、敵対するようになること。
※この見方は『史記』の「越王勾践世家」にも見られます。越王に仕えた范蠡は、勝利後にその場を去りました。彼は「患(うれ)いを共にすることはできても、安きに居ることは難い」と知っていたのです。
また、日本近代史では、西郷隆盛と大久保利通の例も象徴的です。苦難の時代は共に歩んだ二人が、成功後に訣別し、最終的には悲劇を迎える――人の本性の複雑さを突いた鋭い洞察が、ここにあります。
パーマリンク(英語スラッグ)
adversity-unites-success-divides
(苦難は結び、成功は裂く)glory-shared-breeds-jealousy
(栄光の共有は嫉妬を生む)suffer-together-rest-alone
(苦しみは共に、安楽は独りで)
この条文は、「人間の器の限界」ともいえる側面を静かに指摘しています。
誰しも、苦労を分かち合った仲間には信頼を抱きますが、
成功と報酬の配分となると、平等に見えて平等ではない感情の対立が生まれます。
だからこそ、患難は共にし、安楽は少し距離を置いて扱う慎重さが必要。
それが、自他を守り、長く付き合うための智恵なのです。
1. 原文
當與人同過、不當與人同功。
同功則相忌。
可與人共患難、不可與人共安樂。
安樂則相仇。
2. 書き下し文
当に人と過ちを同じくすべく、当に人と功を同じくすべからず。
功を同じくすれば則ち相忌(にく)む。
人と患難を共にすべく、人と安楽を共にすべからず。
安楽なれば則ち相仇(あいあだ)とす。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 人の失敗や過ちは一緒に背負ってもよいが、功績や栄誉は共有すべきではない。
- 功を分け合えば、互いに嫉妬や妬みが生まれるからである。
- 苦労や困難をともにすることはできるが、安楽や成功をともにするのは難しい。
- 安楽の中では、互いが仇(あだ)=敵対する存在になってしまうからである。
4. 用語解説
- 同過(どうか):過失や失敗をともに担うこと。連帯責任のような関係。
- 同功(どうこう):功績をともに分け合うこと。名誉や称賛を共有すること。
- 相忌む(あいにくむ):互いに妬み・嫉妬すること。
- 患難(かんなん):困難・苦しみ・災難。
- 安楽(あんらく):安らかさ・楽しみ・成功・平穏な状態。
- 相仇(あいあだ)とす:互いに仇=敵になる。心にわだかまりを抱き対立するようになること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人と一緒に過ちを背負うのはよいが、功績を分け合うことは避けた方がよい。
功を共有すると、嫉妬や妬みが生まれ、関係が崩れるからである。
また、困難をともにすることはできるが、安楽や成功を共有することは難しい。
安楽なときこそ、人は互いに敵意を持ちやすいからである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**人間関係における“連帯の本質”と“成功の陰”**について鋭い洞察を与えてくれます。
● 苦しみは人を結びつけ、成功は人を分断する
- 共に苦労した者どうしには連帯感が生まれるが、
成功を分け合う段になると、**「誰の手柄か」「誰がより多く称賛されたか」**という比較と嫉妬が生まれる。
● 功を譲る“謙譲”が、対立を防ぐ鍵
- 功績は他人に譲り、過失は共に背負うという姿勢が、信頼されるリーダーや人格者のあり方とされる。
● 成功・快楽の場では、対立が生じやすい
- 安楽な状況では人は気が緩み、自我や欲望が前に出やすく、利害の衝突が顕在化する。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「苦労を共有し、手柄を譲る」文化がチームを強くする
- プロジェクトでの失敗や危機対応は、チームの団結を深める機会。
→ 一方で、成功時に誰が評価されるかという問題は、チームの分裂を招くリスクがある。
● リーダーは“手柄は部下に、責任は自分に”
- 成果を過度に主張するリーダーは、チーム内に不満と距離を生む。
→ 功は部下に譲り、失敗は率先して背負うことが、リーダーの信頼を築く王道。
● 安楽な状況こそ“誤解・軋轢”の温床に
- 会社が安定し始めたとき、ポスト争いや功績の奪い合いが起きやすい。
→ この章句は、**“安楽時にこそ内なる敵意が生まれる”**というリスクへの警告である。
8. ビジネス用の心得タイトル
「功は譲って心を守り、患は共にして信を得る──“分かち合いの境界”を見極めよ」
この章句は、人間関係の深層心理を見抜いた金言です。
「信頼は困難の中で育ち、成功の中で試される」──
そんなリーダーシップやチーム運営における核心を、簡潔に表しています。
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