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争いを裁くより、争いを起こさせるな


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■引用原文(書き下し文付き)

原文:
子曰、聴訟吾猶人也、必也使無訟乎。
無情者不得尽其辞、大畏民志。此謂知本。

書き下し文:
子曰わく、「訟(うったえ)を聴くは、吾れも猶お人のごときなり。必ずや訟なからしめんか」と。
情(まこと)なき者には、その辞(ことば)を尽くすを得ざらしめ、大いに民の志を畏れしむ。
此れを本を知ると謂うなり。

(『礼記』大学 第二章 第四節、論語「顔淵篇」より)


■逐語訳(一文ずつ)

  1. 孔子は言った。「訴えごとを裁くという点では、私も他の人と大差ない。
  2. 本当に大切なのは、そもそも訴えを起こさせないようにすることだ。」
  3. 誠実でない者(=虚偽を述べる者)には、その言い分を十分に語らせず、
  4. 民の心を戒めて、誠実であるように畏れを抱かせる。
  5. このようにして「意を誠にする」ことに努めることを、「本を知る」と言うのだ。

■用語解説

  • 聴訟(ちょうしょう):訴訟や争いごとを裁くこと。孔子の政治姿勢の比喩。
  • 無訟(むしょう):そもそも争いが起こらない状態。真の政治・組織の理想。
  • 無情者:誠実さに欠け、虚偽や計算で行動する者。
  • 不得尽其辞:言葉を尽くしても信用されない状態。信頼されない者への結果。
  • 畏民志(びみんし):民の心を道徳で律し、内面から自律させること。
  • 知本(ちほん):物事の根本(=誠意)を知って実践すること。

■全体の現代語訳(まとめ)

孔子は、「訴えを裁くことそのものに特別な才覚はない。重要なのは、そもそも訴えが起こらないようにすることだ」と語る。
誠実でない人間には言い分を通させず、人々の心に道徳的な恐れや節度を生じさせる。
こうした社会秩序は、個々人の「誠意」によって支えられており、その誠意を養うことが「根本を知る」ことなのである。


■解釈と現代的意義

この章は、誠意の重要性に加えて、「未然防止」の思想を提示しています。
社会や組織においては、問題が起こった後に裁く・処理するよりも、問題が起こらない環境・人間関係を構築することの方が、はるかに高度な知恵であると説いています。

「法治より徳治」とも言える考え方であり、外からの統制ではなく、内からの誠意・自律によってこそ本当の安定が生まれるという視座が貫かれています。


■ビジネスにおける解釈と適用

観点適用例
組織マネジメントトラブルやクレームが発生した後の対応力ではなく、「そもそも問題が起こらないようにする仕組み」や文化形成こそが、優れたマネジメント。
人材評価と信頼構築誠実さのない人物は、どれほど雄弁でも信用されない。人は“言葉”ではなく“在り方”で評価される。
企業ガバナンス法律や罰則だけでは不正は止まらない。社員一人ひとりの「誠意」や「慎独」を育てる企業文化が真のガバナンスとなる。
顧客対応と信用顧客の訴えを処理する力より、そもそも訴えが出ないような丁寧で誠意ある姿勢が、長期的な信頼につながる。

■心得まとめ(ビジネス指針)

「問題は起きたときではなく、起きない状態をつくることが真の力」

リーダーシップとは裁きの巧みさではなく、誠意ある文化を築き、問題そのものを生まれさせない根本的配慮にある。誠意ある人間は、制度よりも強く組織を守る。


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