一、原文の引用と現代語訳(逐語)
原文(抄)
神右衛門申し候は、
「曲者は頼もしきもの、頼もしきものは曲者なり。
年来ためし覚えあり。
頼もしきといふは、首尾よき時は入らず、
人の落目になり、難儀する時節、くぐり入りて頼もしするが頼もしなり。
左様の人は必定曲者なり」と。
現代語訳(逐語)
父・神右衛門はこう言った。
「ひとくせある者(曲者)は頼もしいものだ。
そして、頼もしい人間とは、決まって曲者である。
長年の経験でよくわかっている。
本当に頼れる人間とは、物事がうまくいっている時には近づかず、
困難や苦境にあるときに、わざわざ顔を出して助けようとするような人物だ。
そういう人は、間違いなく“曲者”である。」
二、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
曲者(くせもの) | 一癖ある人物、型破りで扱いにくいが、実力や情のある者。 |
頼もしきもの | 本当に信頼できる人物。言葉よりも行動で証明される人。 |
首尾よき時 | 物事が順調で、成功しているとき。 |
落目(おちめ) | 失敗や衰退、逆境にある状態。 |
三、全体の現代語訳(まとめ)
本当に信頼できる人物とは、あなたが成功しているときには目立たず、
逆に、あなたが苦境に立たされたときに黙って支えようとする者である。
そういう人物は、決して目立った「良い人」には見えないかもしれない。
むしろ、どこか一癖あるような、曲者として扱われている人間であることが多いのだ。
「頼もしさ」は外見や言葉に現れず、行動の選ぶタイミングとその裏にある覚悟に宿る。
四、解釈と現代的意義
外見や人当たりに惑わされるな
- 表面的に愛想が良い人や、うまくいっているときだけ寄ってくる人は、本当に困った時にはいない。
- むしろ、普段は無口で鋭いことを言うような人物――その「ひとくせ」が、実は芯の強さと覚悟の裏返しである。
“陰の功労者”を見抜く目を持て
- 組織の中には、目立たずとも本当に大事な場面で力を貸してくれる人がいる。
- そのような人は、ルールや上下関係よりも、「人の本質」を見て動く。だからこそ“曲者”と見なされやすい。
五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)
シーン | 解釈・適用例 |
---|---|
組織内の人材評価 | 普段は扱いにくく見える人でも、緊急時・修羅場で真価を発揮する人材がいる。 |
リーダーとしての判断力 | 外見や人気でなく、「誰が本当に苦しいときに動くか」で仲間を見極めること。 |
プロジェクトのメンバー選定 | YESマンよりも、時に異議を唱える曲者が、ブレーキ役や再構成の核になる。 |
離職や苦境にある同僚への接し方 | 成功者に群がるのではなく、苦境にある人に自然と手を差し伸べられるかが、人としての器。 |
六、補足:「曲者」が愛される理由
常朝は「型通りの忠義」よりも、“自己流”で本質を貫く人間に価値を見出していました。
だからこそ、「曲者」は“信じられぬ者”ではなく、**“型破りな信頼者”**として賞賛されているのです。
これは、「忠義」と「自由」を共存させる生き方でもあります。
目次
七、まとめ:この章句が伝える心得
「人の器は、困難のときにこそ測られる。頼もしさは、癖の陰に宿る。」
成功に群がる人は多いが、苦境にそっと現れる人は稀だ。
そういう人こそ、たとえ癖があっても、真の「味方」であり、「仲間」である。
私たちが本当に信頼すべきなのは、
言葉ではなく行動で示し、
良いときには黙り、悪いときに寄り添ってくれる――そんな**“曲者”**なのです。
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