企業が持続的に成長し、利益を上げ続けるためには、商品ごとの収益性を正確に分析し、経営資源を適切に配分することが欠かせません。
しかし、付加価値率だけに基づく商品評価は、経営判断を誤らせる可能性があります。本章では、付加価値率に加えて販売数量や賃率を考慮した「期間当たりの付加価値」を用いた分析の重要性について解説します。
付加価値率だけでは見えない収益性の実態
付加価値率は、商品ごとの収益性を測る重要な指標の一つですが、それ単体で商品の企業への貢献度を判断するのは不十分です。次の事例がその理由を示しています。
- L商品
付加価値率が最も高いものの、固定費負担が大きく「出血商品」に分類され、企業の利益を圧迫。 - B商品
付加価値率が低いにもかかわらず、効率的に収益を生み出す「健康商品」。 - I商品・J商品
付加価値率が30%以上と高いものの、出血商品であり収益性に課題。 - H商品
付加価値率28%と一見健全そうだが、「貧血商品」に分類され、企業への貢献度が限定的。
このように、付加価値率だけを基準にした評価では、商品の真の収益性を見誤る可能性があります。
収益性評価における「期間当たりの付加価値」の活用
商品収益性を正確に評価するには、付加価値率に販売数量を掛け合わせた「期間当たりの付加価値」の大きさを考慮することが重要です。
期間当たりの付加価値の考え方
- 収益性が高いが販売数量が少ない商品
付加価値額は限定的で、企業全体への貢献度は低い。 - 収益性がやや低いが大量に売れる商品
期間全体で見た付加価値が大きく、企業への貢献度は高い。
この指標に基づく分析は、収益性だけでなく、販売量や市場ポテンシャルを考慮した経営判断を可能にします。
賃率を考慮した収益性評価の必要性
付加価値額や期間当たりの付加価値が大きくとも、賃率が低い(出血グループに属する)商品は注意が必要です。
これらの商品は、売上が伸びるほど固定費の負担が増え、企業の利益を圧迫する結果を招く可能性があります。
賃率とは
- 賃率は、付加価値額が固定費をどの程度カバーしているかを示す指標。
- 賃率が低い商品は、付加価値額が大きくても、固定費を吸収できず赤字を生む要因となる。
戦略的意思決定に向けた統合的な収益性評価
商品ごとの収益性評価を正確に行うためには、以下の3つの視点を組み合わせた分析が必要です。
- 付加価値率
商品の単位当たりの収益性を把握する基礎指標。 - 期間当たりの付加価値
付加価値率に販売数量を掛け合わせ、期間全体での企業への貢献度を評価。 - 賃率
商品が固定費をどの程度吸収できているかを確認し、企業全体への影響を測定。
本質的な経営判断を支える指標
収益性を本質的に捉えるためには、付加価値率だけでなく、販売数量や賃率を考慮した総合的な指標が必要です。
この視点を欠いた場合、表面的には貢献しているように見える商品が、実際には企業全体の利益を圧迫するリスクがあります。
具体例で見る意思決定の転換
以下の事例を考えます。
- L商品は付加価値率が高いものの、賃率が低く、売れるほど固定費負担を増やしている。
- 一方、B商品は付加価値率が低くても、賃率が高く安定した収益を生む。
この場合、企業が取るべき戦略は次の通りです。
- B商品の販売拡大
高い賃率を活かし、期間当たりの付加価値を最大化。 - L商品の見直し
固定費負担を軽減する方法を模索し、賃率を改善する。 - I商品・J商品の重点化
賃率が改善可能な場合、販売量を増やし、期間当たりの付加価値を高める。
結論:多面的な視点が収益性向上を支える
商品ごとの収益性を正確に評価するためには、付加価値率、販売数量、賃率の三つの指標を統合的に活用することが必要です。
単一の指標に頼ることなく、複数の視点を組み合わせることで、企業全体の収益性を最大化する戦略的な意思決定が可能になります。
企業経営の成功は、「どの商品が企業全体にとって最も貢献しているのか」を正確に把握し、経営資源を効率的に配分できるかどうかにかかっています。
この多面的なアプローチこそが、競争の激しい市場環境で持続可能な成長を実現する鍵です。
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