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やめたいと思ったそのときが、“やめどき”である

「もうやめたい」と思ったその瞬間こそが、最良のタイミング――その感覚を信じてすぐに行動すべきである。
迷いながらも「いずれ良い時期が来たらやめよう」と考えていると、結局やめるきっかけを逃し、ずるずると続けることになる。
たとえば、「息子に嫁をとらせ、娘を嫁がせたら、やっと自由になれる」と考えていても、世俗の用事はその後も次々に湧き出てくる。
また、「出家して僧や道士になれば、道が悟れる」と思っていても、心が澄みきっていなければ出家しても本質は変わらない。
昔の人は言った――「いま、やめたいと思うなら、いまやめよ。タイミングを見計らっていたら、一生やめられない」。
その言葉には、決断を引き延ばすことの危うさと、即断即決の力強さが凝縮されている。


引用(ふりがな付き)

人(ひと)肯(あえ)て当下(とうげ)に休(やす)せば、便(すなわ)ち当下に了(りょう)せん。
若(も)し個(こ)の歇(やす)む処(ところ)を尋(たず)ねんことを要(よう)せば、則(すなわ)ち婚家(こんか)完(お)わんと雖(いえど)も、事(こと)も亦(また)少(すく)なからず、
僧道(そうどう)好(よ)しと雖も、心(こころ)も亦た了(りょう)せず。
前人(ぜんじん)云(い)う、「如今(にょこん)休(やす)し去(さ)らば便(すなわ)ち休し去れ、若(も)し了時(りょうじ)を覔(もと)むれば、了時無(な)からん」と。之(これ)を見ること卓(たく)なり。


注釈

  • 当下(とうげ):その場・その時。まさに「今この瞬間」という意味。
  • 休する/了する:物事をやめる/終わらせるという意味。迷いなく断ち切ること。
  • 婚家完し:子どもの結婚など家庭の用事が片付いた状態を想定。
  • 僧道好し:出家して僧や道士となることが理想的であっても、それが即ち悟りにはつながらないという指摘。
  • 了時無からん:いつ終わりの時かを探していても、そんな時は来ない、という警句。

関連思想と補足

  • 『論語』述而第七:「仁、遠からんや。我仁を欲すれば、斯に仁至る」――やろうと思えば、その時がすでに実現の時。
  • 『菜根譚』前集36条でも、迷わず断つことの大切さが説かれており、本項と重なる。
  • 現代でいえば、仕事・人間関係・習慣などで「惰性で続けていること」を見直す上で、大きな示唆となる。
目次

原文:

人肯當下休、便當下了。
若覓個歇處、則婚嫁雖完、事亦不少。
僧道雖好、心亦不了。
前人云、如今休去便休去、若覓了時、無了時。見之卓矣。


書き下し文:

人、肯(あえ)て当下(とうげ)に休(やす)せば、便(すなわ)ち当下に了(お)われん。
若(も)し個(こ)の歇(やす)む処を覓(もと)めんとせば、則(すなわ)ち婚嫁完しと雖(いえど)も、事も亦(また)少なからず、僧道好しと雖も、心も亦た了せず。
前人(ぜんじん)云(い)わく、「如今(じゅこん)休(やす)し去(さ)らば、便ち休し去れ。若し了時(りょうじ)を覓めば、了時無し」と。
之(これ)を見ること、卓(たく)なり。


現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「人、肯えて当下に休せば、すなわち当下に了せん」
     → 人が今この瞬間にこそ手を止め、心を休める覚悟を持てば、その場で物事は完了し、心は解放される。
  • 「もしも“どこか落ち着ける場所”を探そうとするならば、婚姻や家庭を整えたとしても、やるべきことは尽きないし、僧として出家しても、心の平安は得られない」
     → 外の状況を整えてから休もうとする限り、何も終わらず、心も安らがない。
  • 「前人は言った、『今すぐ休もうと思うなら、ただちに休め。もし“いつか落ち着いたら”と思うなら、そんな時は永遠に来ない』と」
     → これは本当に見事な言葉だ。

用語解説:

  • 当下(とうげ):今この瞬間、現時点。禅語でも「ただいま」「今ここ」の意味。
  • 休(やす)す:止める、やめる、心を休める、執着を捨てること。
  • 了(りょう)す:了える=完結する、悟る、納得する。
  • 歇む処(やすむところ):落ち着ける場所、安住の境地。
  • 婚嫁完し:結婚や家庭を無事に整えること。
  • 僧道(そうどう)好し:出家して仏門に入ることが善いことであっても。
  • 如今(じゅこん):今この時。現時点。
  • 了時(りょうじ):すべてが片付いて落ち着く時、悟りの瞬間。

全体の現代語訳(まとめ):

人は、今この瞬間に休もうと決断すれば、その場で心は解放され、すべてが完了する。
けれども「いつか落ち着ける場所を見つけてから」休もうと考えるならば、結婚や家庭を整えてもやるべきことは尽きないし、出家しても心の平安は訪れない。
昔の賢者は言った。「今休むと決めたら、すぐに休むがよい。もし“完全に落ち着いたら休もう”などと考えるなら、そのような時は永遠に訪れない」と。
この言葉の卓越した真理は、実に見事である。


解釈と現代的意義:

この章句は、**「いまこの瞬間に自ら休む決断をする勇気と覚悟」**の重要性を説いています。

1. 休むのに「条件」が必要だと思っていないか?

  • 仕事が落ち着いたら…
  • 家族の手が離れたら…
  • 出世したら…
    → その“いつか”は、永遠にやってこない可能性が高い。

2. 本当の休息は「外の状況」ではなく「内なる決断」

  • 状況を整えようとするほど、心は逆に休まらなくなる。
    → まずは「もう、ここで一区切りしよう」という内面の判断こそが、真の安らぎにつながる。

3. “今ここ”に立ち戻ることが覚醒と解放の第一歩

  • 未来の条件ではなく、「今」という瞬間に戻ることで、心は解き放たれる。
    → これは禅にも通じる「当下即是道(いまこのときこそ道なり)」という教え。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「仕事が落ち着いたら休む」は永遠に休めない人の言葉

  • 次々に課題が発生するビジネスの現場で、“すべてが整う瞬間”など訪れない。
    → 意識的に「区切り」を作り、「休むと決める力」が必要。

2. バーンアウトの前に“意図的休息”を

  • 疲れてから休むのでは遅すぎる。
    → 「今こそ止まる」「今こそ省みる」という“当下の決断”が、継続の力になる。

3. “完成”を待たずに走りながら見直す文化を

  • プロジェクトの完璧な終結を待たずに、部分的なレビューや小休止を入れる。
    → 「一段落してから」ではなく、「今この時に余白を入れる」発想が重要。

ビジネス用心得タイトル:

「“今、やめる”を選べる人が、次に進める──決断は“未来”ではなく“当下”にあり」


この章句は、現代人が陥りがちな「もっと整ってから」という幻想を壊し、“今すぐに止まる力”こそが、真に進む力であると教えてくれます。

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