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大徳ある者、天命を受く


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■引用原文(『中庸』第十七章)

子曰、舜其大孝也与。徳為聖人、尊為天子、富有四海之内、宗之、子孫保之。
故大徳必得其位、必得其禄、必得其名、必得其寿。
故天之生物、必因其材而篤焉。故栽者培之、傾者覆之。
詩曰、「嘉楽君子、憲憲令徳。宜民宜人、受禄于天、保佑命之、自天申之」。
故大徳者必受命。


■逐語訳

  • 舜其大孝也与:舜は何と偉大な孝行者であったことか。
  • 徳為聖人、尊為天子、富有四海之内:徳においては聖人であり、地位は天子であり、財においては天下を領有していた。
  • 宗之、子孫保之:祖霊はこれを祭りとして受け入れ、子孫はその徳を守り続けた。
  • 大徳必得其位・禄・名・寿:大いなる徳を持つ者は、必ず地位・俸禄・名声・長寿を得る。
  • 天之生物、必因其材而篤焉:天は万物をその資質に応じて発展させる。
  • 栽者培之、傾者覆之:よく育つ苗は育て、傾いたものは覆して取り除く。
  • 嘉楽君子、憲憲令徳:詩経は、善を楽しむ君子は輝かしい徳を持つと称える。
  • 宜民宜人、受禄于天:民にも慕われ、人にも親しまれ、天より俸禄を受ける。
  • 保佑命之、自天申之:天はそれを助け、命(めい)を与え、何度もその命を再確認する。
  • 大徳者必受命:ゆえに大徳を持つ者は、必ず天命を受けるのだ。

■用語解説

  • 舜(しゅん):中国古代の聖王。父と義母の不和を和らげ、大孝をもって知られ、尭から天下を譲られた。
  • 宗之(そうこれをけ):「宗」は祖先神を祀る霊殿。ここでは舜の孝が祖霊に受け入れられたことを指す。
  • 大徳(だいとく):非常に高い道徳。特に人格としての完成度を表す。
  • 命(めい):天命。天が人に与える使命・正当性・王位。
  • 詩経『嘉楽』:君子の徳をたたえる詩篇。「天が徳ある者を任命し支える」思想の出典。

■全体の現代語訳(まとめ)

孔子は語る――
舜という人は、まことに偉大な孝行者であった。
彼は聖人としての徳を備え、天子として尊ばれ、天下の富を有し、祖霊たちはその孝に満足し、子孫たちはその徳を守り続けた。

こうしてわかるように、徳の大きな人物は、地位・俸禄・名声・寿命――人生のあらゆる側面において充実を得るものである。
これは天が万物をその「材(素質)」に応じて厚く育てるようなもので、しっかりした苗は育て、傾いた苗は倒すようにして天は働く。

『詩経』にもこうある。「徳ある君子は輝き、人々に愛され、天より報いを受ける。天はそれを守り、命を授け、それを重ねて強める」と。
ゆえに、大いなる徳を持つ者には、必ず天命が降りてくるのである


■解釈と現代的意義

この章句は、「大徳=天命を得る資格」という、徳と成果との因果的関係を説いています。

  • 舜の「孝」はただの親孝行にとどまらず、人格・統治・社会的調和を含んだ全人格的完成である
  • 天命とは、「運命」ではなく、**“徳によって与えられる使命・正統性”**である
  • これは、単なる幸運や才覚によってではなく、人格の完成と努力によって得られる正当な評価と成果である
  • 「栽者培之、傾者覆之」=育つ者には支援が与えられ、崩れる者には淘汰がある。自然法則と道徳法則が一体であるという儒教的世界観が表れている。

■ビジネスにおける解釈と適用

観点解釈・適用例
リーダーシップの本質地位や成果は一時的なものではなく、「人徳・信頼・人格」が根底にあってこそ本物となる。
組織における評価一貫した誠実さや配慮のある行動が、周囲からの支援や地位・報酬として“返ってくる”原理。
長期的成功実力以上に「信頼される人物」であることが、長期的に役職や報酬、機会を引き寄せる。
人材育成「育つ人材は育て、傾く人材は矯正・整理する」という指導原理として応用可能。

■心得まとめ

「徳を磨けば、天命はおのずから降りてくる」

偉大な成果や評価、地位や名声は、強引に得るものではなく、徳をもって自然に備わるものである。
天は人を、その才能や心根に応じて助けもすれば、見放しもする。
だからこそ、私たちはまず自身の人間性と誠実さを養うことが、すべての出発点であると自覚しなければならない。

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