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■引用原文(日本語訳)
「クリシュナよ、私は勝利を望まない。王国や幸福をも望まない。
ゴーヴィンダよ、私にとって王国が何になる。享楽や生命が何になる。」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第32節
■逐語訳(一文ずつ)
- 「クリシュナよ、私はもはや勝利を望んでいない。
- 王国も、幸福も、私には意味がない。
- ゴーヴィンダ(民を守る者)よ、王国があって何になろうか。
- 享楽や生命そのものに、もはや価値を感じない。」
■用語解説
- 勝利(ヴィジャヤ):ここでは戦争に勝ち、領土や支配を得ること。
- 王国(ラージャ):地位・権力・統治権の象徴。
- 幸福(スカ):物質的な快楽や、社会的成功を伴う満足感。
- 享楽(ブゴーガー):五感を満たす快楽、世俗的な楽しみ。
- 生命(ジーヴィタム):肉体的な生の継続、人生そのもの。
- ゴーヴィンダ:クリシュナの尊称の一つ。「牛を守る者」「人々の守護者」という意味で、愛と庇護を象徴する。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、もはや戦いに勝つことに何の意味も見出せなくなっている。
王国、地位、楽しみ、命ですら、戦いによって得たものであれば空虚であると語る。彼の心には「何のために生きるのか」「何のために勝つのか」という本質的な問いが湧き上がっている。
■解釈と現代的意義
この節は、「目的の喪失」が人をいかに無力にするかを物語っています。
アルジュナは、戦う動機が「誰かを倒すこと」ではなく「守ること」であったはずなのに、その“守るべき者”が目の前に敵として立っているという矛盾に直面しています。
現代でも、仕事や人生において「何のためにこれをしているのか」が見えなくなった瞬間、人は成果や報酬に意味を見出せなくなります。
それがどれほど立派な「勝利」であっても、心が満たされないなら虚しいのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
ミッションなき成功の空虚さ | 売上やシェアを伸ばしても、「誰のために、なぜやっているか」が見えなければ、満足感は得られない。 |
動機の再確認 | 大きなプロジェクトの前に、自分自身やチームに「何のためにやるのか」を確認することが重要。 |
目的と手段の逆転 | 本来の目的(社会貢献・顧客満足)が失われ、数字や競争が目的化すると、燃え尽き症候群や離脱が起こる。 |
リーダーの在り方 | ゴーヴィンダ(守護者)としての役割を持つリーダーは、成果よりも「誰のために働くか」を問う視点を忘れない。 |
■心得まとめ
「なぜ勝ちたいのかを見失えば、勝利は空虚となる」
アルジュナは、勝利の果てに誰も残っていない未来を想像し、虚しさに打ちひしがれる。目的なき行動、使命なき成功は、人の心を満たすことはできない。私たちもまた、何かを“成し遂げる”前に、それを“なぜ成すのか”を深く問わなければならない。
次の第33節以降では、アルジュナが具体的に「その王国や享楽を分かち合うべき者たち」が敵として立っていることを嘆き、さらに深い苦悩へと進んでいきます。
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