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誉れは覚悟に宿る、若き日の一太刀


一、章句(原文)

沢辺平左衛門を介錯いたし候時分、中野数馬江戸より褒美状遣はし、「一門の外聞を取り候」と、事々しき書面にて候。介錯の分にて、斯様に申越され候事余りなる事と、その時分は存じ候へども、その後よくよく案じ候へば、老功の仕事と存じ候。若き者には、少しの事にても武士の仕業を整へ候時は褒め候て気を付け、勇み進み候様仕る為にてあるべく候。


二、現代語訳(逐語)

自分が従兄弟の沢辺平左衛門を介錯した際、江戸にいた中野数馬から「一門の誉れである」との賞賛の書状が届いた。
その時は「介錯ごときでそこまで言われるのか」と思ったが、後になって深く考えると、これは老練なはからいだったと気づいた。

若者に対しては、たとえ些細なことでも、武士として立派に行動した際は賞賛し、心を奮い立たせ、さらに進ませるための教育であると理解した。

また、中野将監からもすぐに褒状が届き、五郎左衛門からは鞍と鐙が贈られた。


三、用語解説

用語解説
介錯(かいしゃく)切腹する者の補助として、苦しませずに首を落とす役。重大な名誉と責任を伴う。
外聞(がいぶん)世間の評判。家や一門の名誉を意味する。
老功の仕事老成した者の知恵ある配慮。教育的意図を含む褒め方。
鞍・鐙(あぶみ)馬具。ここでは武士の誉れと賞賛の象徴として贈られたもの。

四、全体の現代語訳(まとめ)

常朝は若くして、従兄弟の介錯という重い役目を見事に果たし、周囲から大いに称賛された。
当初、本人はそれを過剰とすら思ったが、後にその賞賛が「若き者を励まし、育てるための老練なはからい」だったことに気づく。

このエピソードは、覚悟を持った行為には、それを称える環境と支援があって初めて志が定着するという教育観を示している。


五、解釈と現代的意義

1. 覚悟と礼儀

介錯とは、「死を尊厳あるものとして終わらせる」ための最終的な礼節。
常朝はその責務を、逃げず、淡々と、しかし誠実に果たした。これは「命と向き合う覚悟」と「他者の尊厳を守る行動」が一体であるという武士の倫理を象徴している。

2. 賞賛の力

中野数馬や将監のような年長者が若者の行動を適切に認めることで、ただの経験が「誇り」となり、その者の人生を方向づける。
ここにあるのは、「行為の価値は他者のまなざしによって完成される」という人間観である。

3. 名誉は後から追いかけてくる

常朝の返書にあるように、介錯を頼まれるのは本来避けられがちなこと。しかしそれを引き受けたことで、後に賞賛と名誉が伴った。
これは「最初に報いを求めるな」「まず覚悟を示せ」という行動倫理を教えるものでもある。


六、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・適用例
若手人材育成若者の小さな成功を見逃さず、過剰と思えるくらいに褒め、将来の自負心と覚悟を育てる。
リーダーの責任苦しい役目を自ら引き受けることで、組織の尊厳や仲間の信頼を守る行為に繋がる。
評価と承認賞賛は即時に、かつ文面や記念品など形にして伝えることで、人格形成に深く根づく。
覚悟と実行力成果を求める前に、自分が果たすべき責務を逃げずに果たす姿勢こそが本当の信頼につながる。

七、心得まとめ

  • 名誉とは求めて得るものではない。覚悟と行為が先にあり、賞賛はあとから訪れる。
  • 若者を育てるには、真剣な行為を「過剰なまでに褒める」ことが最大の投資である。
  • 苦しみをともに背負い、黙って果たす行為には、時代を超えて人の心を動かす力がある。
  • 組織においても、**「いざという時に責任を引き受ける者」**こそが、真に信頼される柱となる。
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