固定費の割掛けが引き起こすさまざまな問題について触れてきたが、それでもまだ尽きることはない。
◎工数削減によるコスト削減額
R社を訪問した際、工場長から紹介されたのが、いわゆるMAPI方式だった。これは、設備更新計画として知られ、設備投資の効率を測定するために用いられる手法である。
投資金額を単位期間の節約金額で割ることで回収期間を算出する手法について質問を受けた。内容としては、「担当者が提出してくる設備投資の回収期間が非常に短い。しかし、感覚的にはそれほど短いはずがないと感じている。計算に何か誤りがあるのではないかと思うが、実際のところ本当に正しいのだろうか」というものであった。
計算書を確認したところ、重大な誤りが見つかった。それは、工数削減による節約金額の計算方法に起因している。具体的には以下のような式が用いられていた:
賃率 × 節約時間 = 節約金額
しかし、この計算式で賃率を使用するのは根本的な間違いである。
賃率とは何かについて詳しい説明は後に譲るとして、簡単に言えば、会社全体の固定費を直接工の工数に割り振ったものを指す。このため、たとえ工数が削減されたとしても、割り振られている固定費そのものは減少しない。実際に削減できるのは直接工にかかる人件費のみであり、その金額は賃率の一部分、具体的には賃率全体の数分の一に過ぎないということになる。
人件費の削減が実現するのは、実際に人員が削減されるか、節約された工数が別の有益な作業に転用される場合に限られる。この点を見落としてはならない。工数削減がそのままコスト削減につながるわけではなく、具体的な行動や成果が伴わなければ節約効果は生じない。
◎購買管理における一回の購買費用
購買管理に関する書籍で取り上げられている複雑な計算式は、その大半が固定費を含んでおり、購買業務の有無にかかわらず変わらない費用を扱っている。しかし、実際に増加する費用、つまり変動費は非常に限定的だ。注文書の用紙代、郵送の場合は封筒代や切手代、電話注文なら電話料金だけである。
したがって、現実の運用では、これらの微々たる費用をわざわざ計算に組み込む必要性はほとんどないという結論に至る。
検査時間の短縮によって「人件費がいくら節約できる」といった計算がよく行われるが、実際にはその計算通りに事が運ぶわけではない。時間が短縮されたとしても、それが具体的に人員削減や他業務への有効活用に結びつかなければ、人件費が削減されるとは限らないからだ。計算上の節約額と現実の効果が乖離する可能性があることを認識しておく必要がある。
つまり、検査費用が削減されるのは、実際に検査員の人数が減った場合に限られる。その場合でも削減されるのは、その検査員の人件費に相当する部分だけだ。一方で、人員が減らない場合には、せいぜい残業が減った分の残業手当が削減される程度にとどまる。それ以外の場合は、単に検査員の仕事が減り、その結果、彼らが手持ち無沙汰になるだけという状況になりかねない。
◎在庫管理における在庫減少による費用節約額
在庫が減少することで、具体的にどのような費用が削減されるのかを考えてみると、実際に減るのは在庫減少分にかかる金利だけである。倉庫の減価償却費や固定資産税、さらには維持費などの固定費は、在庫の増減に関わらず変わらない。そのため、在庫削減が直接的に大きな費用削減につながるわけではない点に注意が必要だ。
◎在庫管理における在庫減少による費用節約額
在庫が減少することで、具体的にどのような費用が削減されるのかを考えてみると、実際に減るのは在庫減少分にかかる金利だけである。倉庫の減価償却費や固定資産税、さらには維持費などの固定費は、在庫の増減に関わらず変わらない。そのため、在庫削減が直接的に大きな費用削減につながるわけではない点に注意が必要だ。
◎ 一回の運搬費用
実際に増加する費用は、基本的にガソリン代だけだと考えればよい。それにもかかわらず、人件費やトラックの減価償却費、税金、金利まで含めて計算し、「当社のトラックは百キロ当たりこれだけのコストがかかる」などと考えるのは、完全に的外れである。変動費と固定費を混同した計算では、現実の運搬費用を正確に捉えることはできない。
L社長は「この新商品は画期的だ。確かに高価格だが、施工時間の短縮を考慮すれば割安だ」と胸を張っていた。しかし、結果はほとんど売れなかった。落胆することもなく、L社長は「こんなはずはない」と、まるで天動説を信じるかのように現実を否定するばかりだった。そこで私は、「お客様のところへ行って直接話を聞いてきてください」と助言した。
お客様の意見は明快だった。「計算上では施工時間が短縮されてコスト削減になるかもしれないが、実際の現場ではそううまくはいかない。監督が常に目を光らせているわけでもなく、節約した時間の多くは無駄になってしまうことが多い」とのことだった。
計算上で見える固定費の節減が、現実ではその通りにはならないことは決して珍しくない。このギャップを理解しなければ、いくら理論が整っていても成果には結びつかない。現場の実情を踏まえた視点が不可欠である。
◎伝票一枚のコスト
「伝票一枚あたり三十円のコストがかかる」という話を耳にすることはよくある。しかし、実際に伝票を一枚節約したからといって、その分の三十円がそのまま節約できるわけではない。計算上のコストと実際の節約額には大きな隔たりがあることを理解しなければならない。
原価計算の専門家たちは、さも分かったような顔で複雑な割掛け理論を駆使し、独りよがりの原価を作り上げて自己満足に浸っている。こうした態度では現実的なコスト削減にはつながらず、むしろ問題を見失う原因となる。
実際に伝票を一枚節約して削減できる金額は、伝票一枚あたりの購入価格に過ぎない。それは高く見積もっても一円か二円程度であり、計算上の「三十円」という数字とはまるでかけ離れたものだ。この現実を無視して理論にこだわるのは非生産的である。
固定費の割掛けがもたらす「見かけの節約」と実際の効果の乖離
会社内で発生する様々なコストの見積もりや節約効果の試算において、固定費を割り掛けることで「見かけの節約額」が実態を大きく乖離するケースが多く存在します。以下、具体的な例を挙げながら、固定費割掛けによる誤った計算がどのように会社の意思決定を誤らせるかについて解説します。
1. 工数節減による節約金額の誤算
設備投資の回収期間を計算する際に、工数節減をそのまま賃率で計算してしまうと、実際の節約額よりも過大評価されてしまいます。賃率には固定費が含まれているため、工数を減らしても固定費はそのままであり、実際に節約できるのは直接工の人件費に過ぎないからです。
2. 購買管理における一回の購買費用
購買費用の一部として、注文書や郵送費が直接増減するものの、管理部門の固定費などは、購買活動の増減にかかわらず一定です。従って、実際に増加するのは用紙代や郵送費、電話代などの変動費に限られ、他の固定費は無視しても差し支えありません。
3. 品質管理における検査費用の誤解
抜き取り検査により検査時間を削減する際、実際の節約は残業が減った場合の残業手当や、検査員数が減った場合の人件費に限られます。もし人員が減らず、仕事が軽減されただけなら、その時間分の人件費節約は実現せず、検査員が仕事の量が減って余剰の時間を過ごすだけに留まります。
4. 在庫管理における在庫費用の節約額
在庫が減少しても、倉庫の減価償却費や固定資産税、維持費は変わらず、節約できるのは在庫減少分の金利のみです。多くの管理費用が固定費であるため、在庫削減がもたらす節約は、期待ほど大きくないのが実際です。
5. 一回の運搬費用の実際
運搬費用の変動は、トラックのガソリン代や高速料金に限られることが多く、運搬ごとに減価償却費や税金、人件費まで含めると実態を超えてしまいます。運搬の直接コストを検討する際には、こうした変動費のみに注目する必要があります。
6. 新商品の施工時間節減の価値
L社の事例のように、新商品の導入で施工時間が短縮されたとしても、実際には現場で監督がつききりでいないため、節約された時間は他の仕事に転用されることがなく「遊び時間」として消化される可能性があります。計算上の時間節減効果が必ずしも現実のコスト削減に結びつかないことを考慮すべきです。
7. 伝票一枚のコスト
伝票の管理費用に関して、実際の節約効果は伝票の購入価格に限られます。固定費を含めた一枚当たりのコストを削減できるわけではないため、伝票の購入価格でしか実際の節約効果は見られません。
結論
固定費の割掛けによって、実際以上に節約額を誤算してしまうことが多く、会社内の意思決定が誤った方向に進むリスクがあります。真に必要な経費削減効果やコスト管理には、固定費を除いた変動費に注目し、実際に削減できる要素のみを計算に含めることで、現実に即した判断が可能となります。
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