目次
一、原文と逐語訳
原文:
さもなきことを、念を入れて委しく語る人には、多分その裏に、申し分があるものなり。
それを紛らかし隠さんために、何となく繰立てて語る事なり。
それは、聞くと胸に不審が立つものなり。
逐語現代語訳:
- 大したことでもないのに、わざわざ念を入れて細かく話す人には、
- 多くの場合、その裏に何か隠したい理由や言い訳があるものだ。
- それを取り繕い・隠すために、なんとなくくどくどと語るのである。
- それは、よく耳を澄ませて聞いていれば、どこか不審に感じるものだ。
二、用語解説
用語 | 意味 | 補足 |
---|---|---|
さもなきこと | たいしたことではない話 | 軽微な内容、言い訳に過ぎない事柄 |
念を入れて | 注意深く・丁寧に | 行き過ぎた強調 |
申し分 | 弁解・言い訳 | 自分を守るための主張 |
繰り立てて | くどくどと繰り返して | 同じ話を何度も念押しする |
三、全体の現代語訳(まとめ)
たいしたことでもない話を、くどくどと念を押して語る人は、その裏に必ず何か隠し事や言い訳があると見てよい。
それをまぎらかすために、あえて言葉を多くし、煙に巻くように話すのである。
だが、注意深く聞いていれば、「おや?何かおかしいぞ」と違和感を覚えるはずである。
四、解釈と現代的意義
この教えは「言葉数の多さは不安や嘘のサインである」という心理的観察に基づいています。
- 本当に誠実な人は、要点を簡潔に話す。
- 必要以上に説明しすぎるとき、人はしばしば「自分を正当化したい」「相手の疑念を先回りで潰したい」と考えている。
- くどくど語ることで“言い逃れ”を企図している可能性がある。
『孫子』の引用(行軍篇)にもあるように、「過剰な丁寧さや馴れ馴れしさは、人心の掌握に失敗している証」と見抜かれている。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 応用例・着眼点 |
---|---|
報告を受ける立場 | 部下が過度に長い説明や正当化をしたとき、「核心から離れていないか?」「何を隠そうとしているのか?」と自問する。 |
クレーム対応 | 顧客の言葉が冗長になっている場合、「真の不満」は別のところにあるかもしれないと洞察する。 |
セールス・交渉時 | 相手が説明を繰り返すとき、譲れない立場か、情報を隠している可能性があると判断できる。 |
自分の発言管理 | 自身もくどくど言いすぎていないかを見直す。簡潔に話せるかどうかは、信頼されるリーダーの資質である。 |
六、まとめと教訓
「言葉数の陰に“意図”がある」
真実を語るには、多くの言葉は必要ない。
くどい説明には、どこかに**“欺き”や“ごまかし”の気配**が潜んでいる。
それを見抜くこと、そして自分自身も無駄な言い訳を避け、言葉に誠実さを宿すことこそ、武士道にも通じる「言行一致」の精神です。
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