目次
■引用原文(日本語訳)
第二三章 象(三二四)
「財を守る者(ダナパーラ)」という名の象は、発情期にこめかみから液汁をしたたらせて狂暴になっているときには、
いかんとも制し難い。捕えられると、一口の食物も食べない。象は象の林を慕っている。
■逐語訳
- 「財を守る者」という名の象:ダナパーラという象。王や主の財産を守るとされる象の名前。
- 発情期にこめかみから液汁をしたたらせて:性的衝動の最高潮にある象が「ムスト」と呼ばれる状態に入り、頭部から汁(テンパル)を分泌する。
- 狂暴になっているときには:欲望や衝動の極限に達した象は制御不能になる。
- いかんとも制し難い:どんな手段を講じても抑えきれない。
- 捕えられると、一口の食物も食べない:自由を奪われると、飲食を拒み、意志を固くする。
- 象は象の林を慕っている:仲間や自然(本来の自分の世界)を求めて心が向かう。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
ダナパーラ(財を守る者) | 象の名前であり、同時に「富を護る人」の象徴。強さと忠誠のイメージを含む。 |
液汁(テンパル) | 象が発情期に分泌する頭部の液体で、興奮や攻撃性の象徴とされる。 |
象の林(象林) | 象が本能的に帰属する自然の環境。人間で言えば「本来の自己」や「内的な安定の場所」。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
「財を守る者」という名の象は、発情の時期になると興奮し、頭から液を滴らせて手がつけられないほど狂暴になる。捕らえられてしまうと食事を拒み、象は自らの仲間がいる森(象林)を恋しがっている。
■解釈と現代的意義
この節は、欲望と本能の暴走が、理性や制御を失わせる様子を、発情期の象に喩えて描いています。
仏教においては、**欲・怒り・無知の「三毒」**が心を支配すると、人は自分を見失い、どんなに優れた者でも制御が利かなくなるとされます。
また、象が「象の林」を慕うように、真の自己や安らぎのある場所を求める心も同時に描かれています。
この章句は、人が衝動や欲望に呑まれるときの脆さと、そこから脱したいという内なる願望の二面性を示しているとも解釈できます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
感情マネジメント | ストレスや欲望(承認欲求・金銭欲・支配欲)に呑まれると、理性的な判断ができなくなり、周囲にも悪影響を及ぼす。 |
暴走するリーダー像 | 組織の中で力を持つ者が欲に駆られると、制御不能になり、孤立する危険がある。 |
自己喪失と回復 | 欲望の結果、抑え込まれた状態になると、仕事や人間関係のモチベーションを失い「何も受け入れない」状態に陥る(=食を拒む象)。 |
帰属と居場所の大切さ | 真に回復するためには、「象の林=自己が安らげる場所(文化・チーム・価値観)」への帰属が必要。 |
■心得まとめ
「欲に呑まれたときこそ、本来の自分を思い出せ」
いかに強く、忠実な存在でも、欲望に支配されれば制御を失う。
そのとき、人は自分を閉ざし、孤独に苛まれる。
だからこそ、本能や欲望に振り回されるのではなく、冷静さを保ち、自らの心を調えることが必要である。
ビジネスにおいても、強い感情や衝動に動かされるときほど、「自分の森」――つまり、原点や信念に立ち返る心構えが、あなたを救うのです。
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