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老人を大切に養う政治には、仁人が集まる

孟子は、伯夷と太公望がそれぞれ紂王の暴政を避け、周の文王のもとに身を寄せた逸話を通じて、老人を大切に養う政治がいかに重要であるかを説いた。伯夷は、北海の浜辺で隠れ住んでいたが、文王が王者として立ち上がり、老人を大切にする政治を行っていることを聞いて、文王のもとに身を寄せることを決心した。同様に、太公望も東海の浜辺に隠れ住んでいたが、文王が立ち上がったことを知り、文王の政治に従うことを決めた。このように、天下で老人を大切にする者があれば、仁人は自分の身を寄せる場所として、そこに集まるのである。

「孟子曰(もうし)く、伯夷は紂を辟けて北海の浜に居る。文王作興すと聞き、曰く、盍ぞ帰せざるや。吾れ聞く、西伯は善く老を養う者なり、と。太公は紂を辟けて東海の浜に居る。文王作興すと聞き、曰く、盍ぞ帰せざるや。吾れ聞く、西伯は善く老を養う者なり、と。天下に善く老を養うもの有れば、則ち仁人以て己が帰と為す」

「伯夷は紂王の暴政を避け、北海の浜辺で隠れ住んでいたが、文王が立ち上がり、老人を大切にする政治を行っていると聞いて、文王のもとに身を寄せる決意をした。太公望もまた、紂王のもとを離れて東海の浜辺に隠れ住んでいたが、文王が天下を治めると知り、そのもとに身を寄せることを決めた。このように、天下において老人を大切にする政治を行っているところには、仁人が集まるのです」

老人を養うことは、社会の安定と幸福を築く重要な政策であり、それが実行される場所には、道徳心のある人々が集まってくる。

※注:

「盍ぞ帰せざるや」…なぜ帰らないのか、という問いかけ。
「西伯」…文王。王として立ち上がった西伯(周の文王)のこと。
「善く老を養う」…老人を大切にすること。社会的な福祉の重要性を示している。

目次

『孟子』尽心章句上より

1. 原文

孟子曰、伯夷辟紂、居北海之濱。聞文王作興、曰、盍歸乎來。吾聞西伯善養老者。
太公辟紂、居東海之濱。聞文王作興、曰、盍歸乎來。吾聞西伯善養老者。
天下有善養老、則仁人以爲己歸矣。


2. 書き下し文

孟子曰(いわ)く、伯夷(はくい)は紂(ちゅう)を辟(さ)けて、北海の浜に居(お)る。文王(ぶんおう)作興(さっこう)すと聞きて、曰(いわ)く、「盍(なん)ぞ帰(かえ)らざるや。吾(われ)聞く、西伯(せいはく)は善(よ)く老を養う者なり」と。
太公(たいこう)は紂を辟けて、東海の浜に居る。文王作興すと聞きて、曰く、「盍ぞ帰らざるや。吾聞く、西伯は善く老を養う者なり」と。
天下に善(よ)く老を養う者有れば、則(すなわ)ち仁人(じんじん)以(もっ)て己(おのれ)が帰(き)と為(な)す。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「伯夷は紂を辟けて北海の浜に居る。」
     → 伯夷は暴君・紂王を避けて、北の海辺に住んだ。
  • 「文王作興すと聞き、曰く、盍ぞ帰らざるや。吾れ聞く、西伯は善く老を養う者なり、と。」
     → 文王が徳をもって国を興し始めたと聞くと、「どうして帰らぬのか。私は聞いた、西伯(=文王)は年長者を大切にする方だ」と言った。
  • 「太公は紂を辟けて東海の浜に居る。文王作興すと聞き、曰く、盍ぞ帰らざるや。吾れ聞く、西伯は善く老を養う者なり、と。」
     → 太公もまた紂王を避けて、東の海辺に身を寄せた。文王が現れたと聞き、「どうして帰らぬのか。私は聞いた、西伯は年長者を大切にする人だ」と言った。
  • 「天下に善く老を養う者有れば、則ち仁人以て己が帰と為す。」
     → 天下に年長者をよく養う人がいれば、仁ある人はそこを自ら帰る場所とする。

4. 用語解説

  • 伯夷(はくい):殷末~周初期の高潔な隠者。弟・叔斉とともに義を重んじた伝説的人物。
  • 太公(たいこう):太公望(姜子牙)。周王朝の軍師であり、後に斉の始祖。
  • 辟(さ)く:避ける。ここでは道義に反する政治から身を引いたことを意味する。
  • 文王(ぶんおう):周の基礎を築いた王。徳をもって治めた聖王として知られる。
  • 西伯(せいはく):文王の別称。西方を治める諸侯だったため。
  • 善く老を養う者:年長者を大切にし、敬い、生活を支える人=徳のある統治者。
  • 仁人(じんじん):仁を体現する高潔な人物。
  • 己が帰(おのれがき):自分が帰るにふさわしい場所。ここでは、心のよりどころ・住む国を意味する。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう述べている:
伯夷は暴政を行う紂王を避けて北の海辺に隠れ住んだが、文王が徳によって国を興すと聞くと、「なぜ帰らないのか。私は聞いた、西伯は年長者を大切にする人だ」と語った。
太公望もまた紂王の下を逃れて東の海辺に身を隠していたが、文王の徳政の話を聞き、「なぜ帰らないのか。私は聞いた、西伯は年長者を大切にする人だ」と言った。
このように、天下に年配者を大切にする者がいれば、仁ある人物はそこを自らの帰るべき場所とするのである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「高潔な人がどのような基準で国やリーダーを選ぶか」を描いたエピソードです。

  • 伯夷や太公望のような徳の人は、単に権力や栄達ではなく、「老者を大切にする=徳のある政治」をもってそのリーダーを評価した。
  • 「善く老を養う」=弱者に目を配り、人間を大切にする体制こそが、仁のある人物にとっての「帰るに値する場所」である。
  • 孟子はこの話を通じて、「仁ある者は道義にかなった政治・リーダーに自ずと従う」という信念を語っている。

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「“仁ある組織”に人は自然と集まる」

高潔な人材は、給与や肩書ではなく、“人を大切にする組織文化”に魅力を感じる。年長者や弱者への配慮があるかどうかは、組織の本質を見抜く尺度となる。

✅ 「“人を養う”姿勢こそが、信頼と帰属意識を生む」

若手育成や高齢社員の活用、心理的安全性の確保など、「人に居場所を与えるリーダー」には自然と人が集まる。待遇や制度より、「心の居場所」がカギ。

✅ 「外的環境より“価値観”で帰属先を選べ」

環境が悪いから離れるのではなく、価値観が共鳴するからこそ戻る。仁人の選択は、常に「何を信じ、誰を信じるか」に基づく。


8. ビジネス用の心得タイトル

「人を敬う文化が、人を引き寄せる──“仁者の帰”を得る組織をめざせ」


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