捨てる勇気。集中するための自信
「これだ」という大切なもの、そこに経営資源を集中する。経営者として、商売で成功しようと思うなら、これは非常に重要なことです。
最高の商売というのは、一つの完成された商品だけで大量に売れるような商売をすることです。これが最も効率的ですし、最も儲けを生み出します。
それに「スピード実行」の項で述べましたが、今は世の中の変化の結果、世界が小さくなっています。世界に通用する本物の商品を作れれば、これまでにないスピードで世界の市場をリードすることができる。そんなチャンスが、我々の目の前に格段に広がっています。
典型的な成功例の一つが、アップル社です。
アップルは世界ブランド価値ランキング(ミルウオード・プラウン・オプティモア)で二〇一一年に一位を獲得したのですが、lPod、iPadなど彼らの自慢の製品群を全部並べても、小さなテーブルの上に収まってしまうぐらいなのです。
つまり、売れると踏んだ自信ある商品に徹底的に絞り込んで、それを大量に売ることでアップルは大成功したのです。
しかも、彼らの商品はデザインや機能も徹底的に削ぎ落とされてシンプル。
それで、つまらないかというと、むしろ逆で、その極致としての完成形。素晴らしいデザインで、素晴らしい使用体験を実現しています。だから世界に通じたのだと思います。
ファーストリテイリングが洋服という分野で目指すものを、デジタルやモバイルコンピユーテイングの分野で実現しており、見習うべきことが多々あります。
『フオーブス』の記事で読んだのですが、アツプルの創業者のステイーブ・ジョブズさんがナイキのCEOに就任したマーク・パーカーさんからアドバイスを求められた時、次のように言ったそうです。
「ナイキには誰もが欲しがるような世界最高の商品がいくつかある。しかし、つまらないものもたくさんある。それを捨てて、日用品の商品に集中することだ」と。
パーカーさんは静かに笑ったそうですが、ジョブズさんは真剣そのもので笑わなかったそうです。
多くの人は、集中よりも分散に流れます。頭の中では集中が大切だと分かっていても、「もしその集中したものが売れなかったらどうするんだ」という不安に負けて、行動としては分散という意思決定をしてしまうものです。集中するものに自信がないのですね。
自信がないから分散なのです。
ところが、お客様はこわい。自信がないものを見抜く力を持っています。売る側が自信のないものを、お客様は見事見抜いて買わないのです。
その結果、分散として作ったものは結局ロスとなり、かつ、効率が悪いのでコストも余計にかかって、儲からないばかりか、企業体力を落としていく。かえってそんな経営の悪循環を招きかねないのです。
だから自信のある、日霊局基準のものを作ることに集中して、それ以外の、中途半端にやるようなことはやめる。
そして、その中から特に「これだ」というものに、経営資源を一層集中させていく。他社が絶対に追いつけないものにする。お客様が「ありえない」と驚きの喜び方をされるまでに完成度を高める。
こういった考え方は、他の経営者もできるようでいて、できない。だから、実行する経営者にはチャンスがあるのです。
やらなかったらどうなるかを問うてみる
本当に集中しなければいけないことは何か、この期間中に絶対にやらないといけないことは何か。生き残りのために、成長のために、自分がやらなくてはいけないことを絞り込むにはどうしたらいいのか。
それには一つ、コツがあります。それは、「これをやらなかったらどうなるのか」と自間自答してみることです。
やらなかったとしても、全体から見れば小さな問題だということだったら、それに時間を割かない方がいいかもしれません。
しかし やらなかつたら致命的なことになる、あるいは量嬰計相手に圧倒的に負ける、あるいは会社が飛躍するチャンスを失うかもしれないということだつたら、それは絶対にやるということです。いろいろなことをやらなくていいから、それに集中して取り組むということです。
こうした大きな仕事というのは、集中して徹底的にやらないと、本当の成就はしません。大きな仕事を小さな仕事と同じような感覚でやっていたら、結局何もできていないという結果になります。
人間の能力、そして特に時間には限りがありますから、本当に大きな成果を出そうとしたら、こうした優先順位の絞り方をした仕事のやり方をやっていかないと、忙しいばかりで、思ったほど成果が出なかった、ということになってしまうのです。
仕事というのは、やりやすいこと、自分が得意なことを優先的にやることではなく、やらなくては大変なことになること、やったら効果の大きなことを優先して、そこに集中することが重要なのです。
パートナー関係も、信頼できるところに集中
「これだ」というものに経営資源を集中するという観点から言うと、我々の生産工場とのお付き合いの仕方も、その一つのあらわれです。
我々は、ファーストリテイリングと本当に使命感を共有し、よいもの作りをしてくれると信頼できる会社だけと生産のパートナー関係を絞り込みました。
これも集中の一つです。経営を知らない人の中には、世界にお店を広げるのだから、もっと幅広く生産工場を分散した方が、リスクが低くなるのではないかと考える人もいますが、それは全く逆です。
数を確保するために、使命感が共有できず、信頼のできないところと組むと、指導や管理の手間だけでも大変なことになります。品質の面でお客様に迷惑をかけることもありえます。それで、その指導と管理の投資分だけ、本当の仲間になってくれるかというと、意外とそうならないものです。
追いかけているものが違うと、時間を使って、お金を使ってもなかなか思いが交わることがなかったりするものなのです。
ですから、使命感を共有でき本当に信頼できるところとだけ集中してお付き合いをしていく。もちろん、こちらもそれだけの本気を見せないといけませんが、そうやってがっちりと向きあっていった方が、結果的に経営効率は絶対に良くなるのです。
お金もよく考えてメリハリをつけて使う
最後にもう一つ。言うまでもないことですが、「これだ」というものに経営資源を集中しようとする時は、費用対効果を真剣に考えること。これは鉄則です。
使う時間と費用、これに見合ったリターンがあるのかどうか。これをよく考えるということです。特にお金に関して言うと、大企業になって、お金が結構あるように錯覚している人が多いのですが、そういう考えだと経営は失敗します。
お金があると、工夫することを忘れてしまうので、かえって会社にとってマイナスになるものです。だから、経営者は、お金がないことを前提にして、お金の使い方をいつも真剣に考える習慣をつける必要があるし、そのことを忘れてはなりません。
商売は、インプットよりもアウトプットが大きい分だけ、儲けになるわけです。ですから、いかに少ない費用で大きい効果をもたらすことができるかを、考えて考えて考え抜くという態度が必要なのです。
そう考えると、お金の使い方も集中が大切です。湯水のように工夫もなく使うのもだめですが、 一律何パーセントカツトのような節約も同じようにだめです。
節約というのは、使うべきところに使えるようにするために行うものです。ですから、 一律という発想ではなく、よく考えて、使わなくて済むものに関しては全面的にカット。
一方、これに関して使ったら大きな効果がある、会社の飛躍の元になる可能性があるということに関しては倍使う。
そういったメリハリを利かせて、節約すべきところは徹底して節約する、使うべきところは徹底的に集中して使う、といったことが経営者のお金の使い方だと思います。
戦略、パートナー、お金。いずれにおいても、経営は、分散ではなく集中。ここにもまた儲けの真髄があるという話でした。
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