スピードの重要性がますます高まっている
ファーストリテイリングは直訳すると「はやい小売業」です。「お客様の求めているものをいかに素早くキャツチして、いかにはやく商品化し、いかにはやく提供するか」という、行動指針を会社名に表しました。
この会社名をつけたのが一九九一年です。時代はその時よりもさらにスピードを増して変化をするようになりました。十年ひと昔という言葉があるのですが、今や三年ひと昔、いや一年ひと昔の時代です。
例えば、五千万人のユーザーを獲得するのに、ラジオは三十八年かかったそうです。テレビは十三年かかりました。インターネットは四年です。アップル社が発売したiPodは三年です。そして、フェイスブックはわずか二年です。
フェイスブックは二〇〇六年九月に一般公開しましたが、すでに七億人超の登録者がいるそうです(二〇一一年五月現在)。これを人口におきかえたら、中国、インドに次ぐ、世界第三位の国の大きさになります。
この例に象徴されるように、時代が変化するスピード、ものや情報が広がるスピード、これは本当に桁違いになりました。
ですから、経営におけるスピードの重要性は、ますます高まっていきます。
これは、経営者としては大きなチャンスです。世界中の人に通用する本当にいいものを、どこよりもはやく作って提供できれば、ものすごいサイズの市場を、ものすごいスピードで創ってリードすることが可能だということです。
即断即決即実行
スピードという言葉には「他に先んじるはやさ」と「仕事を素早くやる」の二つの意味があります。
今まで話をしてきたように、世の中の変化、お客様のニーズをはじめとして、状況はその都度その都度変わ
っていますし、変わっていきます。経営者は、そうした状況の変化を誰よりもはやくつかもうとしないといけないし、つかまないといけません。
その対応が遅れたら、会社にとつては致命的になるのではないかという危機感をいつも持って、ものごとを見るようにすることが大切です。
そこの注意力が足りないと失敗をします。変化が起きているのだけれど、それに気づかず、気がついた時には、時間的に処置ができなくて、もう遅いというのでは、商売は失敗です。
そして、もし先んじて気づいたならば先んじて実行。つまり、間違えることを恐れずに即断即決即実行です。
自分たちだけが商売をしているわけではありません。同じアイデアを考えている会社があるかもしれません。
どんなにいいアイデアであっても、他よりも一歩遅れれば、お客様からすれば、もうそれは新鮮でインパクトのあるものではなくなります。
時間というタイミングがずれてしまつたら、せつかくのアイデアも紙くず同然になってしまうのです。市場の変化に気づいたのに、全く儲からないということになりかねません。
だから即断即決即実行。これが大切なのです。
報告文化に注意せよ
これに反するものとして、経営者が注意を持ってあたらなくてはいけないのが、「報告文化」です。
実行よりも報告書の方が多い。会議の資料が多くて、これを作るのに何時間かかったんだろうという資料が山ほど出てくる。こういう状況に遭遇したら、実行力が落ちていると判断して、注意を促さないといけません。
この章の別の項で述べるように、計画や準備をすることは非常に大切なことなのですが、これを誤解して、
計画を書くことが趣味みたいになる人があらわれます。そして計画にうぬぼれて、いい計画ができたと自己満足して、それで終わり。会社というのは放っておくと、意外とこういう人が増えていって、「報告文化」になっていきます。
市場の変化にスピーディーに対応できない会社は、たいがいが「報告文化」になつている会社です。
計画や準備は大切なのですが、それでも実行九、計画一くらいのイメージで時間を使っていくのが理想的です。
その逆の実行一、計画九という人はさすがにいないでしょうが、実行と計画が三対七や、四対六みたいになっている人は結構いるのではないかと思います。
こうした文化が見えたら経営者は、戦ってつぶしていく。そして、即断即決即実行。これをやつていかないと、変化にのみ込まれておしまいの会社になってしまうのです。
すぐやる、必ずやる、出来るまでやる
日本電産社長の永守重信さんからは、経営における「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」ことの大切さを本当に学びました。ファーストリテイリングでも、成果が思うようにいっていない時は、会社の中を見ると、決まってこの「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という力が足りなくなつている時なのです。
考えるばかりで動かない。決めて動いたのに、最後までやりきらないで中途半端で終える。これは時間の無駄です。
問題解決も同じです。例えばお店で問題があったとします。お客様からも指摘がありました。その問題が、お客様が翌週またお店に来られた時も同じ状態のままだつたら、どのように思われるでしようか。
「何という店だ、ここは」。そう呆れられて、お客様を失うことになるでしょう。呆れたお客様は、おうちに戻られてから、いろいろな人に、そのお店の話をすることでしよう。
国には出さないけれど、実は同じ問題意識を持たれていたお客様も離れていき、そのお客様もいろいろな人に、この話をすることでしよう。
お一人のお客様を失っている陰では、何十、何百、何千というお客様を失っているのです。問題解決に対するスピード実行力がないと、こうした問題も引き起こすのです。
時間を活かした人だけが成功する
町工場を世界の自動車会社に育てた、本田技研工業創業者の本田宗一郎さんもスピードを重視する経営者でした。
その本田さんが、時間に関して大変意義深い言葉を残されていますので紹介したいと思います(『ニワトリを殺すな』より)。
「神様は不公平なものでね、だいたいにして人間は色々な格差を背負って生まれてくる。金持ちの家に生まれる人、貧乏な家に生まれる人、健康な人、病弱な人、顔のいい人、お世辞にもそう言えない人……数えきれないくらいだ。本人には何の責任もないのにね。しかし、どんな星の下に生まれようとも、 一日が二十四時間という時間だけは、誰にだって同じだけ与えられているんだ」
「逆に言うと、時間というものは、生まれた時こそタダで貰っているが、その先はいくらお金を出しても手に入れることができない。そんな貴重な時間をうまく利用した人だけがこの世の成功者になれるんだ……。与えられた時間が等しいのであれば、いかに時間を稼ぐかが勝負だ。他が三日かかるものを一日でやれる会社が出てくれば、それだけの時間を稼いだ会社の勝ちだ。人より一日でも早く新しいアイデアにとりかかれば、それだけ早く市場に対応できる可能性が広がる。何ごとにもスピードがとても重要なんだ」
まさに、アイデアも、問題解決も即断即決即実行。これを忘れた経営者は変化に対応できなくなり、会社をだめにしてしまうのです。
逆に時間を活かすことができる経営者は変化をチャンスにできるのです。
まとめ
- 即断即決即実行、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
コメント