仕事の基準を高く持つ
経営者として成功するために大切なことに、「質に対する意識」があります。自分たちのやっていることの質に対する意識です。
「商品の質」「サービスの質」「全てのアウトプットの質」、こうしたものの基準を高く持って、経営をするということです。
質の基準というのは、「お客様にとって本当によい」と思えるラインのことです。組織の中で行われる全ての仕事の基準をそのラインに設定し、絶対に妥協しないで追求してほしいということです。
毎回、毎日、この高い基準での成果を目指して仕事をして、毎週、毎月、毎年、この基準をさらにあげていくようにしてはしい、ということです。
経営者として高い目標を実現しようと思ったら、ここのところを絶対に譲ってはいけないということです。
お客様は厳しい
なぜ質の基準にこだわるのでしょうか。それは、やはり「お客様は厳しい」からです。自分の身に置き換えて考えてみると、すぐに分かることだと思いますが、お客様というのは、一度あるものを手にしたり、体験をしたら、そこが基準になります。そして次からは、その基準でものを見ていきます。
さらには、その基準ではものたりなくなっていって、より高い基準のものを求めるようになります。そして、それを満たすものに出会うと、乗り換えていきます。
このようにして、お客様の方の基準がどんどんあがっていくのです。
例えば、今、日本の百円ショップで扱っている商品の質は大変高いものになっています。「こんなものが百円で買えるのか」というものまで扱っていたりします。
「百円だから、この程度」という基準でやっている会社はつぶれていってしまいます。
今や世界中で人気の、回転寿司も同じです。長年修業をした職人がやつている店に負けないレベルの寿司、あるいはファミリー層や外国人の方が喜んで食べてくれるような工夫された寿司が、回転寿司で食べられます。
ただ単に安い寿司が回っているようなお店はつぶれていきます。
加えて、情報も国境も垣根が低くなりましたから、お客様は本当に世界中のいろいろなことを知っているし、体験をしています。
自分たちよりもお客様の方が詳しいくらいです。そんなことはないと一蹴するとしたら、それは奢りです。
自分たちが一年中、自分たちの会社、自分たちの商品、自分たちのサービス、このことばかり考えている間に、お客様は世界中のいろいろな商品やサービスを研究され、体験されています。
今の世の中、本当に基準が高くないといつ落とされるか分からない時代になっています。
しかも、ファーストリテイリングは、今までは日本だけの競争だったのですが、これからは本格的な世界競争に入っていくわけですから、世界のあらゆる人に通用する、普遍的な高い基準を目指してやっていかない限り、経営者として成功できないということです。
自分なりの基準では意味がない
基準を高く持つ、と言った時、勘違いしてはいけないのは、「自分なりの基準」ではないということです。
「自分なりにできている」と考える人は多いのですが、それでは経営的には全く意味がないのです。
お客様が本当に喜んで下さる基準でできていないといけないわけです。そして、この基準というのが、非常に厳しくなつているので、念頭に置いてほしいのは、「世界で一番」の質の高さを目指し、それを自分たちの基準にするということです。
- 自分たちの店は、世界で一番きれいか。
- 自分たちの店は、世界で一番買い物がしやすい店か。
- 自分たちの接客は、世界で一番気持ちのいい接客か。
- 自分たちの商品は、世界で一番付加価値の高い商品になっているか。
- 自分たちの工場は、世界で一番品質のよいものを作れる工場になっているか。
- 自分たちの管理システムは、世界で一番優れたシステムになっているか。
こうした基準を自分たちに課し、その基準を妥協しないで追求し続ける。他社が追いつけないレベルまで追求する。
競争に勝つためには、この意識で、このレベルまで経営の質を高めることをしないとだめだということです。
どうでしょうか。できているでしょうか。こうした基準で自分たちのやっていることを測定すると、まだまだできていないな、と感じることが多いのではないでしょうか。
「自分は結構できている」と思っている人は、ただ単に設定している基準が低いだけかもしれないです。
高い基準を目指したうえでの失敗であれば、問題ではないこうした高い基準を実現しようと思ったら、簡単にはいかないと思います。たいていのことは、この基準から見たら最初は「失敗」に終わると思います。
私は、それでもいいと思います。
IBMの初代社長であるワトソンさんは社員にいつもこう言っていたそうです。
「完璧を目指さずに成功するよりも、完璧を目指して失敗するほうがよい」(『IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉』)
五十点を目指せば、達成自体は簡単です。しかし、お客様にとって不完全なことを達成したところで、何の意味があるのでしょうか。
それよりも高い基準を目指した方がよいのです。なぜならば、たとえその基準までいきなりは到達できなかつたとしても、低い基準を目指して取り組んだものよりも、よいものができているはずだし、そうした挑戦的なプロセスからは何らかの収穫や学びが生まれるはずだからです。
もちろん、失敗したということに対して、本当に真摯に向き合って、だったら次はどういうふうにしようかということを考えて、実践を繰り返していくことが条件とはなります。
しかし、こうしたことを実行できるのであれば、何回かやっていくうちに絶対に成功すると思いますので、失敗も許されるのです。
そもそも会社というのは、低い基準に甘んじたことをやっていたら即つぶれてしまいます。
例えば、ファーストリテイリングが、うちはGAPとH&MとZARAの次に付加価値の高い商品を作りましょうとか、この三社の次に買い物がしやすい店にしましょうと言っていたら、永久にこの三社に勝てません。
勝てないどころか、ずるずると転落して消えていく。そんなことが容易に想像できるのではないでしょうか。
本当に高い基準を実現すれば、圧倒的なポジションを作れる
お客様から見て本当に高い基準で仕事ができると、圧倒的な存在となることができます。
圧倒的というのは、自分たちが作った基準がお客様の常識になって、その基準に達していない他の店や商品に手を出す気が起きなくなるということです。
インターネット業界のグーグル、モバイルコンピューテイング業界のアップル、遊園地業界のディズニーランドはそういったポジションを取れているのではないでしょうか。
お客様の常識や習慣を変えるほどの価値のイノベーションを起こすと、こうしたことが起きるというわけです。
我々も、そうしたイノベーションに挑戦し続けるべきです。
ここで我々の挑戦としてのヒートテックを例にあげて考えてみましよう。
ヒートテックは、ユニクロを代表する商品になっていますが、ご存じのように最初から大ヒットしたわけで
はありません。二〇〇三年にはじめて商品化した時は、保温性。発熱性を売りにしました。百五十万枚の販売
数ですから、悪くはないのですが、そこそこです。
しかし、それで終えるのではなく、質の基準をあげていくことを、しつこく追求し続けました。
二〇〇四年には、抗菌機能とドライ機能を加えました。
そして二〇〇五年には、保湿機能を加えました。これが、冬に肌の乾燥を防ぎたい女性から熱い支持を受けることになって、この年に四百五十万枚売れました。
その後も二〇〇六年に化学繊維メーカーの東レと戦略的パートナーとしての提携を結び、お客様から見た時の服の基準をさらにあげていきました。具体的には、機能性、バリエーション、ファッション性をさらに進化させました。その結果、二〇〇七年には二千万枚の販売を実現しました。二〇一〇年には、八千万枚です。
世界ではまだまだこれからですが、日本では「冬といえばヒートテック」という常識になってきました。
冬が近づいて寒くなってくるとユニクロにヒートテックを買いに行く習慣が、お客様の中に育ってきたということです。
十年前にはなかった常識や習慣ですから、フアーストリテイリングがイノベーションを起こしたと言ってもよいと思います。
こうしたイノベーションにまでつながったのは、質の基準をとにかく上へ上へと目指して、毎年磨いていく努力を続けたからにほかなりません。
ですから、自分たちの現状に決して満足せず、本当に良い服を目指して、お客様が求めるさらなる基準を追求していけば、ヒートテックに限らず、他の商品でもそれは世界に通じ、世界での販売枚数を増やすことが可能だと思います。
「本物は世界を貫く」と思います。
もっと正確に言うと、「本物だけが世界を貫く」と思います。
みなさんは、本物を作っているでしようか。みなさんの仕事は、本物になっているでしようか。
高い基準を目指し、しつこく追求し、実現し、世界に通用する本物の商品やサービスであふれた会社を作っていってほしいと思います。
まとめ
- 「商品の質」「サービスの質」「全てのアウトプットの質」の「質に対する意識」の基準値を上げる。
- 「お客様は厳しい」。お客様の方の基準がどんどんあがっていく。
- 自分なりの基準では意味がない。経営的には全く意味がない。「世界で一番」の質の高さを目指す。
- 低い基準に甘んじたことをやっていたら即倒産。
- 高い自社の基準がお客様の常識になって、その基準に他社が追随できないレベルにもっていくこと。
- お客様の常識や習慣を変えるほどの価値のイノベーションを起こすこと。
- しつこくしつこく追求すること。
- 「本物だけが世界を貫く」
- 高い基準を目指し、しつこく追求し、実現し、世界に通用する本物の商品やサービスであふれた会社を作る。
ワーク
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