📜 引用原文(出典:『ダンマパダ』第3章 第7偈)
家屋の作者よ!汝の正体は見られてしまった。
汝はもはや家屋を作ることはないであろう。
汝の梁はすべて折れ、家の屋根は壊れてしまった。
心は形成作用を離れて、汝はこの世で滅びてしまった。
(パーリ語原典:
Gahakāraka diṭṭhosi puna gehaṃ na kāhasi,
Sabbā te phāsukā bhaggā gahakūṭaṃ visaṅkhataṃ,
Visaṅkhāragataṃ cittaṃ taṇhānaṃ khayamajjhagā.)
🪶 逐語訳
- 家を作る者(=欲望よ)、お前の正体は暴かれた。
- もう二度と、お前は心という家を築くことはできない。
- お前の梁はすべて折れ、屋根は崩れ落ちた。
- 心はすでに形成(サンカーラ)から自由になり、欲望は完全に滅せられた。
📘 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
家屋の作者(gahakāraka) | 欲望や執着の源であり、「我執」や「無明(無知)」を象徴。 |
家の梁・屋根 | 欲望や無知によって構築された「自我」や「妄想的世界観」の構造要素。 |
形成作用(サンカーラ) | 意志・行為・習慣など、未来を作り出す心の働き。 |
心は形成作用を離れた(visaṅkhāragataṃ cittaṃ) | 悟りに至り、もはや因果に縛られた行為(カルマ)を生み出さない純粋な心の状態。 |
欲望の滅尽(taṇhānaṃ khaya) | 涅槃(ニルヴァーナ)に至る決定的な条件。 |
🧾 全体の現代語訳(まとめ)
「家を作っていた者よ――お前の正体はすでに見破られた。
もはや私は、お前に騙されることはない。
欲望と無知によって作られた私の内なる『家』は、もはや崩壊し、心はもはや何かを築くことをやめた。
この心は完全に自由になり、欲望の根源そのものが滅びたのだ。」
🔍 解釈と現代的意義
この偈は、完全な覚醒(悟り)の瞬間を表しています。
「家屋の作者」とは、私たちの中で絶えず欲望・執着・不安を生み出してきた“内なる無知”であり、
それに気づき、正体を見抜くことによって、もはやそれが心を支配することはできなくなります。
これは、仏陀自身の悟りの瞬間を詠った句ともされ、苦悩の根本原因に気づき、それを解体することによって
真の自由、すなわち「輪廻からの解脱」に至る道が開かれるという深遠な真理を説いています。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
思い込みからの脱却 | 「自分はこうでなければ」「成功とはこういうもの」という固定観念に支配されると、本当の成長や自由を妨げる。正体に気づき、それを壊すことで真の進化が可能となる。 |
メンタルブロックの克服 | 「失敗してはいけない」「嫌われたくない」という欲望が、過剰な自己防衛を生む。それに気づき、正体を暴くことが、解放への第一歩。 |
真のリーダーシップ | 他者や評価によって築いた「仮初の自我」を壊し、自分の価値観と真摯に向き合える者こそが、組織を導くリーダーとなる。 |
持続的な幸福 | 成果や名誉という「心の家」を積み上げることに疲れたとき、その構造をいったん壊すことで、精神の平安が訪れる。 |
💡 心得まとめ(結びのことば)
「心を縛る者の正体を見破れ。そこから自由が始まる。」
「もう、新しい“家”はいらない。私はすでに、ここに在る。」
人は「自分はこうでなければ」という幻想の中で、知らず知らずに心の“家”を建て続けてきました。
しかし、その“家”を作っていた者――欲望、恐れ、自己執着――の正体を見抜いたとき、
はじめて「もう家を作る必要がない」「今ここにあることがすでに満ちている」と知るのです。
それが、精神の自由、すなわち涅槃への到達なのです。
この偈は第6偈と対になっており、「探求」と「悟り」のセットです。
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