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📜 引用原文(出典:『ダンマパダ』第3章 第6偈)
汝は、幾多の生涯にわたって、生死の流れをくりかえし経めぐって来た、
家屋の作者をさがしもとめて。
あの生涯、この生涯とくりかえすのは、苦しいことである。
(パーリ語原典:
Anikkhittaṃ vāyaṃ ciraṃ sandhāvitaṃ ahaṃ,
Gahakārakaṃ gavesanto dukkhā jāti punappunaṃ.)
🪶 逐語訳
- 私はこの長い間、幾度もの生まれ変わりを繰り返してきた。
- それは、「家(身体・存在)」の作者を探し求めてのことだった。
- 生まれては死に、また生まれては死ぬ――その繰り返しは、実に苦しみに満ちている。
📘 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
家屋の作者(gahakāraka) | 自我・欲望・執着の心を作り出す根本原因。ここでは「我執(アートマン幻想)」の比喩とされる。 |
生死の流れ(サンサーラ) | 生まれ変わり(輪廻)の連続。仏教における根本的苦の世界。 |
苦しみ(dukkha) | 生老病死、失望、執着、無知などに伴う存在的な苦悩。 |
家(gaha) | 肉体、自己イメージ、執着する対象。仏教的には「仮の存在」であり、真の安住所ではない。 |
🧾 全体の現代語訳(まとめ)
私は長い輪廻の旅を続けてきた。
何度も生まれ、何度も死に、そのたびに「自分」という家を築き、その中で苦しみながら生きてきた。
そのたびに「家を作る者」、すなわち「苦の原因である心」を探し求めてきたが、見出せぬまま彷徨い続けてきた。
この果てしない流転は、実に苦しく、空しい。
🔍 解釈と現代的意義
この偈は、**「自己の本質と苦の原因を求める内的な旅の苦しみ」を描いています。
「家屋の作者を探す」というのは、仏教的に言えば「我(が)への執着=心の造作主」を探してきたということです。
しかし、その探求は外に答えを求めていては終わらず、真実の発見は、「心を見つめ、自己の中に原因があると知ること」**から始まります。
この偈はまた、内省と覚醒への導入でもあり、人生における意味の探求がいかに苦悩と根気を要する旅であるかを象徴的に伝えています。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
キャリアの迷走 | 転職や資格取得、肩書きなど外的な「家」に安住を求めても、本質的な満足は得られない。まず「内なる作者=価値観」を見直すことが必要。 |
目的なき努力の苦しみ | 結果や報酬ばかりを追い求めると、「なぜやっているのか」が見えず、疲弊する。自分の行為の動機を問うことで軸が整う。 |
自己認識の欠如 | 自分の内面を見つめることなく他責思考に陥ると、何度も同じ失敗や迷いを繰り返す。「心の造り手」に向き合う習慣が必要。 |
リーダーとしての示唆 | メンバーの悩みや迷いの根源を「構造」ではなく「心の作者(動機・価値観)」から探ることで、支援の質が高まる。 |
💡 心得まとめ(結びのことば)
「幾度の迷いも、心の“作者”を見つけるまで続く。」
「苦しみの根は、いつも自分の内にある。」
この偈は、外的な出来事や環境を変えても、本当の解決にはならないことを教えてくれます。
「自分は何に動かされているのか?」「その動機は本当に必要なものか?」と、
自分の心の“建築主”を探ることで、はじめて真の自由が見えてきます。
その探求が終わるとき、「心の旅」は終わり、「静けさ」が始まるのです。
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