■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、すべての悪い生存領域を捨て去る。
――『ダンマパダ』第24節(二四)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:仏教的主体性の原則。自己の在り方は、他でもなく自らにより決まる。
- 他人がどうして主であろうか?:他人の評価や支配・外部の制度に、自己を明け渡すなという自律の精神。
- 賢者(パンディタ):深い内省と自己修養を経て、欲望・怒り・無知を超えた存在。
- 身をよくととのえる:言行・習慣・心・信念・生活の一貫性と清浄さを徹底的に整えた状態。
- 悪い生存領域(duggati/悪趣):地獄・餓鬼・畜生など、仏教における六道のうちの苦しみのある再生世界。ここでは象徴的に、「迷いや執着の繰り返しに苦しむ世界」全般を指す。
- 捨て去る(pajahati):一時的回避ではなく、「完全に離脱する」「輪廻からの解放に達する」という意味。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この世において、自分の人生の主導者は自分自身である。
他人にその権利を明け渡すことはできない。
だからこそ、賢者は自らを整え続け、
最終的には、すべての苦しみの領域――迷いと執着が繰り返される世界――を断ち切り、
完全な自由に至る。」
これは、仏教で説かれる**「解脱=涅槃(ニッバーナ)」の象徴的表現**です。
■ 解釈と現代的意義
この章句は、「自己を律することで、精神的自由のみならず、存在の本質的苦しみからも解放される」ことを示しています。
現代的に解釈すれば、「悪い生存領域」とは次のような状態も含みます:
- 感情の奴隷になる日々
- 他人の目に縛られた生き方
- 目的なき仕事と消耗のループ
- 自己否定・嫉妬・虚栄・慢心に苛まれる生活
これらを断ち切るための道は、自己を徹底的に整えることによってのみ開かれる。
それが「この世において自分が自分の主である」という言葉の究極的意味です。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
キャリアの自律 | 組織や肩書きに振り回されず、真に自分の信じる道を整え、進むことで苦しみの再生ループから脱する。 |
メンタルマネジメント | ストレス・怒り・焦りの感情に繰り返し巻き込まれない心の技法として、自己統御を鍛える重要性。 |
経営・方針決定 | 他者依存型のビジネスモデルから脱却し、理念と整った実践によって“迷いの無い”事業運営を確立する。 |
人間関係の成熟 | 相手に依存せず、自らの価値観と原則によって関係性を築くことで、繰り返されるトラブルから自由になる。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「整えた者は、もはや縛られぬ」
己の手で人生を歩み、己の手で心を磨き、己の手で迷いを断つ。
他人ではない。制度でもない。過去でもない。
自分を整えた者だけが、
この生存という苦しみの環から離れ、真の自由へと至る。
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