■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、永く天の世界にあって楽しむ。
――『ダンマパダ』第18節(一八)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:自らの人生・心・行動を導くのは、他でもない自分である。
- 他人がどうして主であろうか?:他人に依存し、支配されるのではなく、自分の人生に責任を持つべきという教え。
- 賢者(パンディタ):自己を観察し、正しく行動し、欲望と怒りを制御できる者。
- 身をよくととのえる:精神・言葉・行為を常に整え、継続的に修養を積む。
- 天の世界にあって楽しむ(dibbesu lokeṣu ramati):高次の世界(天界)において安穏・喜び・光明に包まれて生きる状態。単なる死後の天国観ではなく、心が整った人に訪れる永続的幸福状態とも解釈可能。
- 永く(ciraṁ):一時的ではない、安定した、変わらない幸福の継続性を意味する。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この世において、真に自分を導くのは自分自身である。他人が自分の主人であることなどあり得ない。
賢者は、自己を整える努力を重ねることで、やがて永遠に近い時間を、天の世界のような至福の中で過ごすようになる。」
この句は、自己修養によって得られる究極の果報=安定した至福の持続状態を説いています。
■ 解釈と現代的意義
この章句の意義は、**「正しく整えられた人生は、一時の成功に終わらず、永く喜びを与え続ける」**という、現代的な幸福論にも通じるものです。
仏教的には「天界に生れる」という概念を通して語られていますが、現代的に言えばこれは:
- 継続的な信頼
- 静かな満足感
- 人間関係の調和
- 老いても損なわれない尊敬と心の安らぎ
といった、持続的な内的報酬と社会的果報を象徴しています。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
生涯キャリア設計 | 一時的な評価ではなく、長年にわたり尊敬と成果を得続ける「安定的幸福な働き方」の重要性。 |
経営哲学 | 短期利益ではなく、「永く続く信頼」と「社員の満足」を築く経営が最終的な報いとなる。 |
リーダーシップ | 一貫した言行・誠実な関係構築が、リーダー自身に「永く尊敬され、頼られる幸せ」をもたらす。 |
引退後の姿 | 社会的に去ったあとも、その人の徳が語り継がれ、安らぎと感謝の中にある状態=「天界的報い」。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「整えた生き方は、歓びを永く残す」
他人の声に振り回されず、
自らを律して歩み続けた人生には、
結果として静かな歓びと光が宿る。
その人は、現世においても来世においても、
永く楽しむ権利を、すでに得ている。
この一八節をもって、「自己こそ主である」シリーズは完璧な循環構造で終わりを迎えます。
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