■ 引用原文(日本語訳)
この世では自己こそ自分の主である。
他人がどうして(自分の)主であろうか?
賢者は、自分の身をよくととのえて、いろいろの幸せを得る。
――『ダンマパダ』第16節(一六)
■ 逐語訳と用語解説
- 自己こそ自分の主:人生の決定権・選択・責任は他人ではなく自分にある。
- 他人がどうして主であろうか?:他人の目や期待、価値観に支配されるべきではないという仏教の独立精神。
- 賢者(パンディタ):自己をよく観察し、煩悩を制御し、内面と外面を調和させている者。
- 身をよくととのえる:日々の習慣・言葉・心を正し、継続して安定を保つこと。
- いろいろの幸せ(sukha):物質的安穏・人間関係の調和・精神的平安・目的の達成・社会的信頼などを含む総合的幸福。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
「この世において、自分の人生の主人は自分自身である。他人がその主であるはずがない。
だからこそ、賢者は自分の行い・姿勢・心を日々整えることによって、さまざまなかたちの幸福を得ていく。」
この句は、幸福とは外部の与件ではなく、自己の整いの結果として自然と現れるものであるという仏教的幸福論を表しています。
■ 解釈と現代的意義
この章句が私たちに伝えるのは、
「幸福は他人から与えられるのではなく、自ら築き、自ら受け取るもの」
という強くも静かな真理です。
外的成功、他人の承認、偶然の幸運を追い求めるのではなく、自己を律することによって生まれる内的・外的な調和こそが、本当の幸せにつながるという視点は、現代社会における「幸福の再定義」にも繋がります。
■ ビジネスにおける解釈と適用
領域 | 適用例 |
---|---|
ワークライフバランス | 外の成果ではなく、自分の行動・習慣・心の整いを通して、仕事と生活の調和を得る。 |
働きがいの創出 | 仕事の意義や人間関係の充実感は、自己の姿勢によって育まれる「内発的幸福」である。 |
経営と組織文化 | 成果を強要するのではなく、社員一人ひとりが「自らを整える」ことを促す組織が長期的に成功する。 |
リーダーシップ | 幸せな職場を作るには、リーダー自身が整った心で周囲と向き合い、見本となる必要がある。 |
■ 感興のことば(心得まとめ)
「幸せは、自分を整えた者のもとに自然と訪れる」
他人に任せず、環境に振り回されず、
まずは自らの言葉と行動と心を調えること。
それが、人生にさまざまなかたちの「幸」をもたらす
もっとも確かな道である。
この一六節は、十一〜十五節に続く「自己を主とする教え」の総括であり、人生の果実を静かに提示する句です。
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