■ 引用(出典)
九*
他人の過去を見るなかれ。
他人のなしたこととなさなかったことを見るなかれ。
ただ自分の(なしたこととなさなかったこととについて)
それが正しかったか正しくなかったかを、よく反省せよ。
(『ダンマパダ』第18章 第9偈)
■ 逐語訳
- 他人の行動の過去を詮索するな。
- 他人が何をしたか、あるいはしなかったかを問題にするな。
- それよりも、まず自分自身の言動――自分が行ったこと、怠ったこと――
- それが正しかったかどうかをよく振り返り、反省せよ。
■ 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
他人の過去 | 他者の失敗・判断・選択の履歴。批判や比較の対象となりがちなもの。 |
なしたこと/なさなかったこと | 行動だけでなく、発言・判断・態度のすべてを含む。 |
反省(パチナヴェッカナー) | 自己の行為を冷静に見直し、過ちを認め、正す心のはたらき。 |
正しいか否か | 仏教における倫理的判断。「八正道」に基づく正語・正業・正念なども含意する。 |
■ 全体現代語訳(まとめ)
他人のあれこれを見て批判するな。誰かが何をしたか、何をしなかったかばかりに気を取られていては、自分は成長できない。
見るべきは自分自身。自分の言動が真実にかなっていたか、誠実だったかを省みるところに、ほんとうの進化がある。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、まさに「内省のすすめ」です。SNSなどで他者の行動が可視化され、誰でも評論家になれる現代において、この教えは非常にタイムリーです。他人を裁くのは簡単です。しかし、自分自身の行動を厳しく、しかし誠実に見つめることは、真の知性と謙虚さがなければできません。
反省の力は、自他を傷つけず、静かに自らを進化させる道なのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 応用の仕方 |
---|---|
マネジメントと評価 | 部下や同僚のミスにばかり目を向けず、自分の指導や環境づくりがどうだったかを省みることで、より良いリーダーになれる。 |
反省文化の醸成 | 「誰が悪いか」よりも、「自分にできたことは何か」を問う文化がある組織は、しなやかで成長が速い。 |
自己成長の基本姿勢 | 他者の成功や失敗に気を取られるのではなく、自分がその日どう生きたかを一日一度、見つめ直す時間を持つことが成長につながる。 |
■ ビジネス心得タイトル
「他人を測る前に、自分を見つめよ」
正しさとは他人に押しつけるものではなく、自らの生き方に映し出されるものである。
誰かを責めたくなったときこそ、自分の心と行動に問いかけよ――それが成熟した人間の証である。
この第九偈は、自律と謙虚さを支える「智慧の礎」となる句です。
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